【企業分析 Part 2】アパレル・靴小売5社の「割安性」分析:ROICに見合う株価がついているか?
前回の記事では、アパレル・靴小売5社(ダブルエー、yutori、ABCマート、ファーストリテイリング、パルグループ)のビジネスモデルをROICツリーで解剖し、各社の「稼ぐ構造」の違いを明らかにしました。
しかし、株式投資において「優秀な会社(高ROIC)」が必ずしも「今、買い(割安)」とは限りません。優秀な会社には、それ相応の「プレミアム(高い株価)」がついていることが多いからです。
本記事では、前回分析した「実力(ROIC)」に対し、現在の「株価評価(バリュエーション)」が適正かどうかを、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)を用いて冷静に分析します。
1. バリュエーション比較一覧
まず、各社の主要な指標を並列比較します。(※数値は直近の市場コンセンサスおよび実績に基づく概算値)
| 企業名 | ROIC (実力) | PER (期待) | PBR (資産評価) | 配当利回り | 企業規模 |
| ファーストリテイリング | 15.6% | 約 35〜40倍 | 約 5.0倍〜 | 低 | 超大型 |
| yutori | 12.3% | 約 30〜40倍 | 約 5.0倍〜 | 無/低 | 小型 |
| パルグループ | 14.5% | 約 16〜18倍 | 約 3.0倍 | 中 | 中型 |
| ABCマート | 11.8% | 約 18〜20倍 | 約 2.5倍 | 中 | 大型 |
| ダブルエー | 9.7% | 約 12〜15倍 | 約 2.0倍 | 中 | 小型 |
指標の読み解き方
- PER(株価収益率): 投資回収にかかる年数。「人気のバロメーター」であり、高成長企業や人気企業ほど高くなります。
- PBR(株価純資産倍率): 企業の純資産に対して株価が何倍か。「ROICが高い企業はPBRも高くなる」のが理論的な正解です。
2. 各社の割安性分析
ROIC(実力)とPER/PBR(評価)のギャップから、市場がその企業をどう見ているかを分析します。
A. 「プレミアム評価」グループ
ファーストリテイリング & yutori
この2社は、PERが30倍〜40倍前後と、市場平均(15倍程度)と比較して「割高」に見える水準で取引されています。しかし、その背景は異なります。
- ファーストリテイリング:
- 理由: 「確実性への対価」。世界展開による成長余地と、不況でも利益を出し続ける鉄壁のビジネスモデルに対し、市場は「高い金を払ってでも保有したい」と判断しています(クオリティ・プレミアム)。
- yutori:
- 理由: 「成長速度への期待」。現在は利益規模が小さいものの、売上の成長スピードが速いため、将来の利益拡大を現在の株価に織り込んでいます(グロース・プレミアム)。
【分析】
現状のPERだけで見れば割安ではありません。「成長が続くこと」が前提の価格設定となっているため、決算ごとの進捗確認が重要になります。
B. 「バランス(GARP)」グループ
パルグループホールディングス
- ROIC 14.5% に対し、PER 16〜18倍
分析:
今回の5社の中で、最も「実力(ROIC)と評価(PER)のバランスが良い」状態にあると言えます。
ROICはファーストリテイリングに近い高水準(14.5%)でありながら、PERは市場平均並み(10倍台後半)に留まっています。これは、市場が雑貨事業の好調持続性に慎重であるか、あるいは再評価の途中である可能性を示唆しています。
統計的に見れば、実力に対して株価評価に割安感が残っている銘柄です。
C. 「適正〜ディスカウント」グループ
ABCマート & ダブルエー
- ABCマート:
- ROIC 11.8% に対し PER 18〜20倍。
- 評価: 極めて適正な評価です。安定成長企業としての地位が確立しており、割安・割高の歪みが少ない状態です。配当などのインカムゲインを重視する投資家が支えているため、下値も堅い傾向にあります。
- ダブルエー:
- ROIC 9.7% に対し PER 12〜15倍。
- 評価: 5社の中では最もPERが低く、指標上の「割安感」があります。
- 要因: 堅実な経営ですが、yutoriのような爆発的な成長期待がないことや、時価総額が小さく機関投資家が入りにくい「流動性ディスカウント」がかかっている可能性があります。ニッチトップ企業の安定性を評価するならば、エントリーしやすい水準と言えます。
3. 結論:投資スタンス別の適合銘柄
ROIC(実力)とバリュエーション(株価評価)を統合した結論は以下の通りです。
- 割安な成長株を狙いたい場合:
- パルグループ: 高ROICかつPERが過熱しておらず、実力と評価のバランスが良好。
- モメンタム(勢い)に乗る場合:
- yutori / ファーストリテイリング: 指標上の割安さはないが、市場の期待値が高い「順張り」銘柄。
- 下値リスクを抑えて堅実に運用したい場合:
- ダブルエー / ABCマート: 低PERでビジネスモデルが安定しており、長期保有向き。
編集後記:私の選択
最後に、今回分析した5社の中で、全てのデータを比較検討した結果、私が実際にポートフォリオに組み入れ、保有している銘柄を明記しておきます。
私の選択は、株式会社ダブルエー (7683) です。
他社のような派手な急成長や圧倒的な規模はありませんが、婦人靴というニッチな市場で見せている「AI活用による在庫管理能力(ROICの質)」の高さ、そして現在の指標面での「割安感(ダウンサイドリスクの低さ)」を評価しました。
市場の過度な期待が乗っていない分、長期的に安心して保有できる「堅実な成長株」として、ポートフォリオの一角を担ってもらっています。