NVIDIAもIntelも頭が上がらない「最強の下請け」。信越化学が握るAIの急所と、私の冷めた計算結果。

NVIDIAもIntelも頭が上がらない「最強の下請け」。信越化学が握るAIの急所と、私の冷めた計算結果。

AIバブルの狂乱が続いています。 NVIDIAの株価が乱高下するたびに、投資家たちの悲鳴と歓声がSNSを埋め尽くす。 正直、私はそのダンスに参加する気にはなれません。あまりにも音楽のテンポが速すぎるからです。

しかし、こうも考えます。 「ゴールドラッシュで一番儲けたのは、金を掘った人間ではなく、ツルハシとジーンズを売った人間だ」

では、現代のAIゴールドラッシュにおいて、「NVIDIAですら頭を下げて買わざるを得ないツルハシ」を売っているのは誰か? リサーチの末にたどり着いたのは、地味で、堅実で、驚くほど高収益な日本の化学メーカー、信越化学工業(4063)でした。

今回は、世界のテック巨人が信越化学に依存せざるを得ない「証拠」と、私が弾いたそろばん(DCF法)の結果を共有します。


1. テック巨人が「あなたじゃなきゃダメだ」と言う証拠

「素材メーカーなんて、どこも一緒でしょ?」 そう思っているなら、認識を改めた方がいいかもしれません。信越化学は、単なるサプライヤーではなく「パートナー」という名のVIP待遇を受けています。

エビデンス①:TSMCからのラブコール

AI半導体の心臓部、NVIDIAのGPUを製造しているのは台湾のTSMCです。 そのTSMCが、毎年「Excellent Performance Award」という賞を発表しているのですが、信越化学はこれの常連です。

投資家の解釈: 「3nmプロセスの微細な回路を焼くためのフォトレジスト(感光材)とウェハは、信越さんの品質じゃないと歩留まりが出ないんです」 TSMCがそう言っているに等しいわけです。つまり、NVIDIAのGPUは、信越化学の素材の上でしか成立しない。これが物理的な現実です。

エビデンス②:Intelも依存する「素材の王様」

自前で工場を持つIntelも同様です。彼らのサプライヤー表彰(EPIC Distinguished Supplier Award)のリストにも、当たり前のように信越化学の名前があります。 IntelのCPUも、信越のウェハなしではただのシリコンの塊です。

エビデンス③:圧倒的なシェアという「独占」

  • シリコンウェハ:世界シェア1位(約30%〜40%)
  • フォトレジスト:トップシェア

半導体を作るための「画用紙(ウェハ)」と「インク(レジスト)」の最高級品を握られている以上、テック企業側に選択権はありません。 「嫌なら他所へどうぞ。ただし、品質は保証しませんが」という無言の圧力が、信越化学の利益率(30%超)を支えているわけです。


2. 「塩ビ」と「半導体」の奇妙な同居

信越化学の面白いところは、最先端の「半導体素材」と、泥臭い「塩ビ(水道管や住宅建材)」という、全く毛色の違う2つの事業を抱えている点です。

  • 塩ビ: 米国の住宅市場やインフラに連動。
  • 半導体: デジタル需要に連動。

一見ちぐはぐに見えますが、投資家としてはこれが心地よい。 「半導体が不況でも、米国の住宅が好調なら稼げる」 「住宅ローン金利が上がって家が売れなくても、AI需要があれば稼げる」

この「どちらに転んでも死なないポートフォリオ」こそが、信越化学の鉄壁の財務(自己資本比率80%超)の源泉です。


3. 計算してみた:今の株価は「買い」なのか?

いくら「良い会社」でも、「良い投資先(割安)」とは限りません。 現在の株価(4,500円)が正当化されるのか、DCF法で冷徹に計算してみました。

【計算の前提:悲観的に見る】 現在は「米国の住宅不況(塩ビ不振)」と「半導体在庫調整」のダブルパンチ状態です。楽観シナリオは排除し、かなり辛めの数字を入れます。

  • 成長率:+3%〜5%(マイルドな回復)
  • 営業利益率:30%→28%へ悪化させる

【計算結果】

  • 事業価値:約 7.1兆円
  • ネットキャッシュ:約 1.6兆円(ものすごい金持ちです)
  • 株主価値:約 8.7兆円

これを株数で割ると…… 理論株価:約 4,400円

【結論】 現在の株価(4,500円)とほぼ一致。 つまり、「適正価格(Fair Value)」です。

残念ながら「バーゲンセール」ではありませんでした。市場は、現在の業績の減速を極めて正確に織り込んでいます。 逆に言えば、これだけの優良企業に「プレミアム(割高感)」が乗っていない、という見方もできます。


4. 総括:退屈だが、枕を高くして眠れる投資先

結論として、信越化学は私のポートフォリオの「守護神」になり得ます。

NVIDIAのような爆発力(と、心臓に悪い値動き)はありません。 しかし、AI革命が続く限り彼らの素材は必要とされ続けるし、仮にAIバブルが弾けても、彼らには「塩ビ」と「莫大なキャッシュ」という防波堤があります。

「適正価格で、世界最強の素材メーカーを持つ」 バリュー投資の父、ベンジャミン・グレアムなら「悪くない取引だ」と言うでしょう。

派手なダンスフロアの隅で、静かにカクテルを傾けるような投資。 今の私には、それくらいが丁度いいのかもしれません。

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