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カテゴリー: 投資日誌

信越化学(4063):「最強」だが、あえてこの巨象を見送った「重複リスク」と「限界」の話。

信越化学(4063):「最強」だが、あえてこの巨象を見送った「重複リスク」と「限界」の話。

世界シェアNo.1の製品を複数抱え、AIブームの足元を支える巨人、信越化学工業(4063)。

PER18倍という過去平均から見た割安水準、1.6兆円を超える潤沢なキャッシュ、そして攻めの設備投資。

スペックシートだけを見れば、まさに「完璧な買い場」です。

正直に言えば、私も一度は購入ボタンの上に指を置きました。これほど堅牢な財務と高い技術力を持つ企業には、本能的な敬意を抱いてしまうからです。

しかし、指を止めて冷静に自分のポートフォリオ全体を点検した結果、私は「今回はエントリーしない(見送り)」という結論に至りました。

企業としての「美しさ」は疑いようもありません。

ただ、「素晴らしい企業」が、必ずしも「私のポートフォリオに必要なコンポーネント」とは限らないことに気づいたからです。

今回は、私がこの魅力的な銘柄をあえて外した理由、その「スタンスの問題」について記録します。


1. 「混ぜ物」であるがゆえの、バグの複雑化

信越化学の最大の特徴であり、強みとされているのが「半導体シリコンウエハー」と「塩ビ(化学品)」という2つの巨大な柱です。

通常であれば、片方のセグメントが不調でも、もう片方が補うという「分散処理」が機能するはずです。

しかし、現在のステータスを解析すると、少し違った景色が見えてきます。

現状は、「両方の事業ともマクロ経済(景気)の影響を受けている」状態です。

特に塩ビ事業はコモディティとしての性質が強く、中国企業のダンピングや米国の住宅金利といった、一企業の自助努力では制御不能な外部要因に利益が直撃します。

PER18倍は数字上割安に見えますが、この「マクロ経済というブラックボックスに翻弄されるリスク」を引き受ける対価としては、決して安すぎるわけではない。そう判断しました。

2. そのリスク、もう「インデックス」で取っているのではありませんか?

これが今回、私が投資を見送った最大の理由であり、もっとも大きな気付きでした。

私はコア資産として、S&P500などのインデックスファンドを運用しています。

改めてポートフォリオの設計図を見直してみると、信越化学を買うことで背負うリスクは、すでにインデックス投資で負っているリスクと「丸かぶり」なのです。

  • 米国の金利動向・景気後退リスク S&P500全体ですでに負っている。
  • AI・半導体サイクルの波 構成上位のNVIDIA等の決算ですでに負っている。

すでにインデックスという器で、お腹いっぱいにリスクを取っている状態です。

それなのに、個別株の枠を使ってまで、さらに「米国の住宅着工件数」や「中国のPMI」といったマクロ指標に一喜一憂するポジションを持つ必要があるのか?

「たった1つの銘柄のために、世界のマクロニュースに常時接続し、怯える生活をしたくない」。

このメンタルコストを削減し、システム全体の安定性を保つための「見送り」です。

3. 個人投資家の「解像度」の限界を知る

もう一つは、シクリカル銘柄(景気敏感株)への投資タイミングにおける、再現性の低さです。

信越化学のような銘柄は、「景気が悪い時(今)」に仕込み、「景気が良くなった時」に売るのがセオリーです。

しかし、実際に「景気が良くなった」というニュースや確定的なデータが出た瞬間、株価はそれをミリ秒単位で織り込んで跳ね上がってしまいます。

つまり、利益を出すためには「まだ霧の中で先が見えないうちに、リスクを取って買い向かう」必要があるわけです。

ここで、私は自分の限界を認めざるを得ません。

「中国の需給バランスはいつ改善するのか?」

「米国の利下げは本当に年内に行われるのか?」

プロのアナリストですら読み間違えるこのマクロ予測に、大切なお金を賭けるだけの根拠(エビデンス)を、私は持っていません。

「不確実性が高く、解像度の低いものには手を出さない」というのも、市場で長く生き残るための重要なセキュリティです。


結論:美しいロジックだが、私の「システム」には合わない

以上の理由から、信越化学は今回のリバランスにおいて、私のポートフォリオには組み入れないことにしました。

誤解しないでいただきたいのは、これは「信越化学がダメだ」と言っているわけではない、ということです。

マクロ分析が得意な方や、インデックスを保有していない方にとっては、この水準は非常に魅力的なエントリーポイントになり得るでしょう。

ただ、私のスタンスとしては、以下のような「異常事態」が起きない限り、静観(ウォッチ)を続けます。

【再エントリー条件】

リーマンショック級の暴落が発生し、PERが10倍〜12倍になるような「誰が見てもバグレベルに安すぎる」という水準まで売り込まれること。

「良い企業を見つけること」と「自分のポートフォリオに実装すること」は、全く別のレイヤーの話である。

この線引きができたことが、今回のリサーチにおける最大の収穫でした。

この仮説が正しかったのか、それとも機会損失だったのか。

次の決算という答え合わせを、焦らず待ちたいと思います。

日中関係悪化でホテル株が急落。パニック売りの横で、静かにREITを買い増した理由。日中関係悪化でホテル株が急落からのREITを買い増し

日中関係悪化でホテル株が急落。パニック売りの横で、静かにREITを買い増した理由。日中関係悪化でホテル株が急落からのREITを買い増し

昨日から今日にかけて、市場が騒がしいですね。 高市総理の発言に対し中国政府が抗議したことで、インバウンド関連、特にホテル株が「売り一色」の展開となりました。

市場は悲観のどん底にいるようですが、私はこの急落を「オーバーシュート(売られすぎ)」だと捉えています。 みんなが逃げ出している火事場ですが、実は火元は大したことないんじゃないか? そう考え、あえてJ-REIT(ホテル系)を少し買い増ししてみました。

もちろん、落ちてくるナイフを掴んだ可能性もゼロではありません。 ただ、自分なりに過去のデータと現状を整理し、「リスクに見合うオッズだ」と判断したプロセスを備忘録として残しておきます。


1. 何が起きているのか(ヘッドラインへの過剰反応)

まず、事実確認(ファクトチェック)です。 株価急落のトリガーは「中国政府による渡航自粛の呼びかけ」という報道です。

ここで重要なのは、現時点では「渡航禁止(ビザ発給停止)」という強制力のある措置までは至っていないという点です。

しかし、最近の株式市場はアルゴリズム取引が支配しています。 「中国」「日中関係悪化」「自粛」 こうしたネガティブなキーワードをAIが感知し、機械的に売り注文を浴びせている可能性が高い。 中身を精査せず、見出しだけで反応する「条件反射的な売り」であるなら、そこには歪みが生まれているはずです。


2. 「2012年の悪夢」を再検証する

ここで少し冷静になるために、歴史を紐解きます。 最も近い事例として、「2012年9月の尖閣諸島国有化」当時の状況を思い出してみましょう。日中関係が戦後最悪レベルまで冷え込み、激しい反日デモが起きたあの時です。

では、その時、訪日中国人は「ゼロ」になったのでしょうか? 日本政府観光局(JNTO)の統計データを確認してみました。

  • 国有化直後(2012年10月〜12月):前年同月比 約33%〜44%減

確かに大きな打撃です。しかし、逆に言えば「半分以上は維持されていた」のです。 ビジネス客や個人旅行客(FIT)の往来までは完全には止まらなかった。あれほどのデモが起きても、人の流れはゼロにはならない。これが歴史の教訓です。


3. 「総崩れ」は起きないという算段

この過去データを踏まえ、私は以下のシナリオを立てました。

① 中国はもはや「絶対王者」ではない 現在の訪日客数のトップは韓国であり、中国は2番手です。ポートフォリオは分散されています。

② 他国・国内がカバーする 中国人が来なくても、韓国、台湾、欧米、国内の客足が遠のく理由はありません。

仮に2012年同様に中国客が4割減ったとしても、インバウンド全体から見れば数%〜10%未満の影響に留まります。 「ホテル業界全体が壊滅する」という市場の反応は、あまりに情緒的すぎると言わざるを得ません。


4. 結論:不確実性を買う

市場は常に「最悪のケース」を織り込みに行きますが、私は「構造的な調整の範囲内」という、やや楽観的な(しかしデータに基づいた)シナリオに賭けることにしました。

今の株価水準は、今回の騒動前の「2ヶ月前くらいの価格」まで戻っています。 業績(実体)が変わっていないのに、センチメント(気分)だけで安くなっているなら、それはバーゲンセールです。

もちろん、ここから政治的対立が激化し、本当にビザ停止などの措置が取られれば、私のシナリオは崩壊します。その時は素直に負けを認めましょう。 ただ、「みんなが恐怖で逃げている時こそ、冷静にデータを拾いに行く」という逆張り的な発想こそが、超過リターンを生む唯一の道だと信じています。

さて、このナイフ掴みが吉と出るか凶と出るか。 結果が出るまでの間、少し安く買えたホテルのオーナー気分で覚悟を決め込むことにします。