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カテゴリー: 企業分析

なぜ「地味な」コスモス薬品 (3349) が、私のポートフォリオの守護神なのか。DCF法が弾き出した「嘘のない価格」について。

なぜ「地味な」コスモス薬品 (3349) が、私のポートフォリオの守護神なのか。DCF法が弾き出した「嘘のない価格」について。

私のポートフォリオは、インデックス投資をコアにしつつ、サテライト枠で「自分がビジネスモデルを理解できる個別株」を保有するスタイルです。

そのサテライト枠において、いわば「アンカー(錨)」として私の資産を繋ぎ止めているのが、九州を地盤とするドラッグストアの王者、コスモス薬品(3349)です。

世間がAI関連や半導体株の乱舞に湧いている中、なぜあえてこんな「地味な」銘柄を選んでいるのか? その理由は、DCF法で計算した際に見えた、市場評価の「合理性」にあります。

今回は、私がこの銘柄を保有し続ける根拠である「適正価値」について、冷徹な数字とともに解説します。


1. 予測可能な未来を持つ「鉄壁のビジネス」

計算に入る前に、なぜこの企業の未来が予測しやすいのか。その理由は彼らのビジネスモデルの「堅さ」にあります。

  • 徹底したEDLP(毎日安い): 特売もポイントカードもしない。その分、販管費を削って毎日安く売る。この単純さが顧客の信頼を作っています。
  • 食品比率 約6割: 看板はドラッグストアですが、実態は「スーパーマーケット」です。どんなに不況でも、人は薬を買い控えようとしますが、食事を抜くことはできません。

この「不況への耐性」と「ドミナント戦略による着実なエリア拡大」があるからこそ、DCF法による長期予測が機能するのです。


2. 叩いてみた(DCF法シミュレーション)

では、実際に企業価値を計算してみます。 夢を見るような急成長シナリオは排除し、過去の実績に基づいた「退屈かつ現実的なシナリオ」を設定しました。

【計算の前提条件】

  • 売上成長率:年率 +6.0% (巡航速度)
    • 九州から関東・中部への出店余地はまだ潤沢です。生活必需品需要に支えられ、過去の実績から見ても5〜7%の成長は極めて確度が高い数字です。
  • 営業利益率:3.5% 〜 3.8% (薄利多売の規律)
    • ここがポイントです。彼らは利益率をあえて低く抑え、その分を価格に還元して競合を潰す戦略をとっています。したがって、利益率が急上昇することはありません。「低く安定していること」こそが強みです。
  • 割引率(WACC):5.5%
    • 財務が健全で、業績のブレも小さい。投資家が求めるリスクプレミアムは低くて済みます。

【シミュレーション結果】

この前提で、向こう5年間のキャッシュフローを積み上げると、派手さはありませんが、毎年確実に現金が増えていく「複利の安定感」が見えてきます。

  • 5年分のFCF現在価値:約 1,190億円
  • 5年後以降の永続価値:約 4,612億円
  • ネットキャッシュ等:約 100億円
  • 株主価値:約 5,902億円

これを発行済株式数で割ると…… 理論株価:約 7,377円


3. 市場評価との「一致」が意味するもの

  • 理論株価:約 7,377円
  • 実際の株価:約 7,230円(執筆時点)
  • 乖離倍率:ほぼ 1.0倍

ご覧ください。恐ろしいほどの一致(適正価格)です。

この結果こそが、私がこの銘柄を安心して保有し続けられる最大の理由です。 市場はコスモス薬品に対して、過度な夢(AIバブルのような)も見ていなければ、不当な低評価もしていません。 「積み上げてきた実績と、これからの確実な成長」を、極めてフェアに評価しています。

割高なプレミアムが一切乗っていないため、決算のたびに「期待外れだ」と言われて株価が急落する恐怖がありません。 私が7,200円近辺で保有しているのは、「年率6%の成長」という果実を、適正な対価を払って手に入れていることと同義なのです。


4. 参考:なぜ「大好き」なyutoriは買わないのか

対照的な例として、前回の記事で触れたアパレル企業の yutori (5892) についても触れておきます。 企業としては大好きですが、現状、私は1株も持っていません。

  • yutoriの現状: 理論株価 約500円に対し、市場株価は2,600円台(乖離約5倍)。

理由はシンプル。市場が「M&Aによる非連続的な爆発的成長」をすでに織り込んでいるからです。 「好き」という感情だけで、プレミアムがたっぷり乗った高値圏に飛び込むのは、投資家ではなくファンの行動です。

  • コスモス薬品: 適正評価なので、ガチホして資産を守りながら増やす。
  • yutori: 期待先行なので監視を続け、株価が理論値に近づくような「契機(暴落)」が来たら拾う。

私の戦略(何をやって、何をやらないか)は明確です。


まとめ:冷静と情熱のポートフォリオ

投資において「良い会社」を見つけることは重要ですが、「適正な価格」で買うことはもっと重要です。

コスモス薬品は、決して派手な銘柄ではありません。 しかし、DCF法という物差しを当てたとき、これほどまでに「嘘のない価格」がついている銘柄は希少です。

市場の熱狂に流されず、こうした「実力値」が見える銘柄をポートフォリオのアンカーに据えることで、長く、心穏やかな投資を続けていきたいと考えています。

……まあ、地味すぎて飲み会で株の話になった時には、全く盛り上がらないんですけどね。

yutori (5892) 株価2,600円の謎。電卓を叩いたら「理論値500円」が出てしまった話。

yutori (5892) 株価2,600円の謎。電卓を叩いたら「理論値500円」が出てしまった話。

Z世代向けアパレル、yutori(5892)。 私の監視リストの常連であり、かつて保有し、そして恐怖を感じて手放した銘柄です。

直近の株価は 2,636円(執筆時点)。ピークの6000円からかなり下がったものの、相変わらず高い評価を受けています。そして熱量の高い株主が多い印象です。

「なぜ、これほど高いのか?」 そのロジックを解明するために、私は禁断の果実、DCF法(割引現在価値法)を使ってシミュレーションを行いました。

結論から言います。 私のExcelが弾き出した理論株価は、約492円でした。

現在の株価の5分の1以下です。 計算ミスではありません。何度やってもこうなります。 今日は、この「5倍の乖離」が何を意味するのか。市場が賭けている「正体」について、計算プロセスを公開しながら解剖します。


1. もし「普通のアパレル」だったら?(冷徹な計算)

まず、yutoriから「M&Aによる急成長」という魔法を取り上げ、地道に服を売って成長する企業だと仮定して計算してみました。

【計算の前提:これでも甘めに見積もった】 アパレル業界の構造的現実に基づき、以下のパラメータを設定しました。

  • 売上成長率:初期+25% → 将来+5%
    • 単一ブランドで+50%成長を続けるのは物理的に無理です。流行り廃りの激しい業界で、向こう2年+25%成長というのは、かなり優秀な部類です。
  • 営業利益率:10%前後
    • 家賃がないD2Cとはいえ、SNS広告費がかかります。大手でも8〜9%が相場の世界で、10%は合格ラインです。
  • 割引率(WACC):11.0%
    • 小型グロース株のリスクプレミアムを考えれば、これくらい割り引くのが妥当でしょう。

【シミュレーション結果】 このシナリオで、向こう5年間に生み出すキャッシュフローを積み上げました。

  • 5年後には売上が現在の2倍(135億円)になる。
  • 利益も順調に出続ける。

既存事業としては文句なしの成長です。 しかし、これらを現在価値に割り戻し、借金を引いて株数で割ると……

理論株価: 約 492円


2. 「2,100円」の正体

  • 理論値(実力):約 500円
  • 市場値(株価):約 2,600円

この差額、約2,100円。 これを「バブルだ」「割高だ」と切り捨てるのは簡単です。しかし、それでは市場の心理を見誤ります。

この乖離は間違いではありません。 これこそが、投資家たちがyutoriに支払っている「M&Aへの入場料(プレミアム)」なのです。

市場は、yutoriを「服を売る会社」とは見ていません。「アパレル版ロールアップ・システム」として評価しているのです。

  • オーガニック成長(理論値): 坂道を登るような、なだらかな成長。
  • M&A戦略(市場値): 買収によって売上が「ドン!」と跳ね上がる、階段状の非連続な成長。

株価2,636円という数字は、「yutoriなら、これからもイケてるブランドを次々と買収して、数年で売上を今の数倍〜10倍にする景色を見せてくれるはずだ」という、市場からの強烈な信任票そのものです。


3. 結論:私はその「夢」を買えるか

今回の計算で、yutoriの株価の成分表がクリアになりました。

  • 株価の20%(約500円): 今ある服が売れる価値。
  • 株価の80%(約2,100円): まだ見ぬM&Aへの期待料。

今の株価で投資をするということは、「資産の8割を『期待』という名の空気に対して支払う」ということです。

経営陣の手腕は認めます。彼らのPMI(買収後の統合)能力が卓越していることも知っています。 それでも、理屈屋の私にとって「実体の5倍の価格」でエントリーするのは、あまりに高所恐怖症を刺激する行為です。

「すべてが完璧にいく」という前提の価格には、ミスの許容範囲(安全域)がありません。 もしM&Aが一つでもコケたら? 期待(2,100円部分)が剥落し、株価は一瞬で理論値(500円)へ向かってナイアガラを起こすでしょう。

だから私は、今は手を出さず、スタジアムの外から彼らの試合を観戦することにします。 もし暴落が起きて、期待料が剥がれ落ちた時が来れば……その時は、この計算式を持って拾いに行くかもしれません。

「好きだけど、売るしかなかった」yutori (5892) を2,000円台でもまだ買い戻さない理由。

「好きだけど、売るしかなかった」yutori (5892) を2,000円台でもまだ買い戻さない理由。

yutori(5892)。 株価は上場来高値の6,000円台から、現在は2,000円台まで見事に滑り落ちています。ピーク時の3分の1です。 「さすがに安いだろ」と監視リストに入れている人も多いのではないでしょうか。

実は、私自身も半年ほど前、実際にyutoriの株を持っていました。

誤解しないでください。私はこの会社が大好きです。 SNSを駆使して在庫を極限まで回転させるビジネスモデルは革新的だし、何よりそれを実行している中の人たちの「熱量」が凄い。他のアパレル企業にはない「文化」を感じます。

でも、全株売りました。 そして、暴落した今もまだ買い戻していません。

今日は、ファンだからこそ冷静に見ている「再エントリーの水準」について、私の個人的な、そしてかなりシビアな目線を共有します。


1. なぜ、好きな企業を売ったのか

私が半年前に売却を決断した理由はシンプルです。 「ビビったから」です。

もっともらしい言葉を使えば、「株価が実力を追い越しすぎてしまった」となります。 当時の株価は、上場直後の熱狂と「将来への特大の期待」がこれでもかと織り込まれ、バリュエーション(PER)が許容範囲を超えていました。

「素晴らしい会社だ」という気持ちと、「投資としてこの価格は正当化できない」という冷静な判断。 この二つを天秤にかけ、私は泣く泣く「利確」ボタンを押しました。あれは「賢明な判断」というより、チキンレースから降りただけかもしれません。

現在の2,000円台への下落は、その時の「熱狂」が落ち着き、ようやく魔法が解けて現実に戻ってきた段階だと捉えています。


2. 2,000円台でも残る「割高感」

「3分の1になったんだから、そろそろ買えば?」 そう思われるかもしれませんが、私はまだ指をくわえて見ています。

理由は、現在の2,000円台という株価でも、予想PERは依然として30倍〜40倍あるからです。

  • 一般的なアパレル:PER 15倍〜20倍
  • yutori:PER 30倍超

yutoriは高成長企業ですが、ビジネスモデルは在庫リスクを伴う「服屋」です。SaaS企業のような利益率は出にくい構造です。 今の株価には、まだ「今後も驚異的な成長が続き、一切のミスも許されない」という強い期待(プレミアム)が乗っています。

一度保有していたからこそ分かりますが、このプレミアムが乗っている状態での保有は、決算のたびに心臓が痛くなります。 「決算ガチャ」に怯える生活はもう懲り懲りなので、もう少し「安全域」が確保できるまでは、外から見守るのが賢明だと判断しています。


3. 私が狙っている「買い戻し」水準

では、具体的にどこまで落ちれば、再び株主になりたいか。 あくまで私個人のワガママな目安ですが、こう考えています。

【ターゲット】 株価 1,500円前後(PER 20倍〜25倍水準)

ここまで調整して初めて、再エントリーを検討します。

【根拠】 アパレル業界の平均PER(15倍)に、yutori特有の「成長力」と「人材力」への期待値を少し上乗せして、「まあPER 20倍〜25倍なら許せるか」という計算です。

現在の2,000円台後半から見れば、あと30%〜40%の下落余地があることになります。 「そこまで下がるのか?」と思われるかもしれませんが、成長株の調整局面では、熱狂が冷めると一気に適正PERまで修正されることが珍しくありません。ナイアガラは突然来ますから。


結論:愛しているからこそ、適正価格を待つ

yutoriは、中長期的には日本のファッション業界を変えるポテンシャルがある、本当に面白い会社です。 だからこそ、高値掴みをして含み損に苦しむのではなく、**「自信を持って長く持てる価格」**で買い戻したい。

私のスタンスは変わらず、 「今はまだ注視。1,000円台半ばが見えてくるまでは、焦って手を出さない」 です。

もちろん、明日から急反発して置いていかれるリスクもあります。 しかし、一度利益確定できた余裕を持っていますので、焦らず、自身の規律(ターゲットプライス)に来るその時を、蜘蛛のようにじっくり待ちたいと思います。

ROIC 15%のユニクロと、PER 30倍のyutori。結局、今の株価は「お買い得」なのか?

ROIC 15%のユニクロと、PER 30倍のyutori。結局、今の株価は「お買い得」なのか?

前回の記事では、アパレル・靴小売5社の「中身(ROIC)」を解剖しました。

「稼ぐ力」の構造は分かりました。しかし、投資家の仕事はここで終わりではありません。

「いい会社なのは分かった。で、今の値段は高いの? 安いの?」

スーパーでA5ランクの和牛が美味しいのは当たり前です。問題は、それが「100グラム5,000円」で売られている時に買うべきかどうかです。

株式投資において、「優秀な会社」と「優秀な投資先」はイコールではありません。すべては価格(バリュエーション)次第です。

今回は、前回分析した5社の「実力(ROIC)」に対し、市場がつけている「値札(PER/PBR)」が適正かどうか、冷徹にジャッジしていきます。


1. 値札の比較(バリュエーション一覧)

まず、各社の主要指標を横並びにして、市場の期待値を可視化します。(※数値は執筆時点の概算)

企業名ROIC (実力)PER (期待値)私の印象
ファストリ15.6%35〜40倍王者の貫禄(高い)
yutori12.3%30〜40倍成長への熱狂(高い)
パルグループ14.5%16〜18倍なぜか評価が低い
ABCマート11.8%18〜20倍極めて適正(普通)
ダブルエー9.7%12〜15倍不人気ゆえの割安

こうして並べると、市場の「偏愛」が透けて見えますね。

2. 市場はどう値付けしているか?

ROIC(実力)とPER(期待)のギャップから、市場心理を読み解きます。

A. 「プレミアム(割高)」グループ

ファーストリテイリング & yutori

この2社は、PER 30倍〜40倍。市場平均(15倍程度)の倍以上の値札がついています。

「和牛100グラム 5,000円」の世界です。

  • ファストリ: 「世界一になる会社だから、高い金を払ってでも持ちたい」というクオリティ・プレミアム
  • yutori: 「もっと成長するはずだから、今のうちに買っておけ」というグロース・プレミアム

今の株価には「成功して当たり前」という期待がパンパンに詰まっています。

美味しいですが、少しでも焼き加減(決算)を間違えれば、期待が剥落してナイアガラを起こすリスクと隣り合わせです。

B. 「バーゲン(歪み)」グループ

パルグループホールディングス

今回のリストの中で、最も**「実力と評価のバランスがバグっている」**のがここです。

ROICは14.5%とファストリに迫る高水準なのに、PERは10倍台後半と常識的。

「3COINS」などの雑貨事業が好調ですが、市場はまだ「雑貨屋でしょ?」と軽く見ているのかもしれません。

数字だけで判断するなら、最も合理的なエントリー候補に見えます。

C. 「ディスカウント(不人気)」グループ

ダブルエー (7683)

ROIC 9.7% に対し、PER 12〜15倍。

5社の中で最も「期待されていない」銘柄です。

堅実な経営をしていますが、yutoriのような派手な成長ストーリーがないため、機関投資家やイナゴ(短期筋)が集まってきません。

いわゆる「流動性ディスカウント」により、実力よりも安く放置されている状態です。


結論:それぞれの「買い」の根拠

以上の分析から、投資スタンス別の適合銘柄はこうなります。

  1. 「王道を行く」なら: パルグループ
    • 高ROICかつ、過熱感がない。教科書的な「GARP(成長割安株)」投資のど真ん中です。
  2. 「夢を買う」なら: yutori / ファストリ
    • 指標は割高ですが、モメンタム(勢い)は最強です。「高いものがさらに高くなる」順張りの世界。
  3. 「負けない」なら: ダブルエー / ABCマート
    • 低PERで下値が堅い。大勝ちはしませんが、夜ぐっすり眠れます。

あえて私が選んだのは

最後に、この分析を経て私が実際にポートフォリオに入れた銘柄を明記しておきます。

私の選択は、ダブルエー (7683) です。

「一番地味なやつじゃないか」と言われそうですね。

確かに、yutoriのような爆発力も、パルグループのような華やかさもありません。

しかし、私は婦人靴というニッチ市場で見せている彼らの「AI在庫管理(ROICの質の高さ)」を評価しています。

何より、PER 12〜15倍という水準は、これ以上大きく下がるリスクが限定的です。

「市場の期待が低い」ということは、裏を返せば「良い決算が出た時のサプライズ(伸びしろ)が大きい」ということ。

みんなが熱狂している高PER株を横目に、誰も見ていない地味な優良株を安く拾う。

この天邪鬼なスタイルこそが、私の投資家としての生存戦略なのです。

「利益率」だけで株を買うな。アパレル5社のエンジンを「ROIC」で分解してみた。

「利益率」だけで株を買うな。アパレル5社のエンジンを「ROIC」で分解してみた。

企業の「稼ぐ力」を測る指標として、最近よく耳にするROIC(投下資本利益率)。

計算式とか出てくると「うっ」となる人もいるかもしれませんが、エンジニアの私にとって、これほど面白いおもちゃはありません。

特に在庫という「生鮮食品」を扱うアパレル業界において、ROICは企業の「性格」を丸裸にします。

単に利益が出ているかだけでなく、「手持ちの資金(在庫や店舗)を、どれだけのスピードで回転させているか」という経営の質(エンジンの性能)が見えてくるからです。

今回は、私が注目するアパレル・靴小売5社をまな板に載せ、そのビジネスモデルをROICというメスで解剖してみます。


分析の視点:ROICを「分解」する

ROICという数字単体を見ても面白くありません。これを以下の2つの要素に分解します。

【ROICの正体】

ROIC = ① 利益率(パワー) × ② 回転率(スピード)

  • ① 利益率: 売上に対してどれだけ利益を残せるか。(ブランド力、原価抑制)
  • ② 回転率: 在庫をどれだけ速く現金に変えられるか。(販売効率、在庫管理)

要は、「重い荷物を運ぶダンプカー(高利益率)」なのか、「身軽に走り回るスポーツカー(高回転)」なのかを見極める作業です。


1. 「スピード」で殴るスポーツカーたち

まずは、圧倒的な「資本回転率(Speed)」で数字を稼いでいるグループです。

yutori (5892)

  • ROIC:約 12.3%
  • タイプ:超・高回転型

この会社、とにかく速い。回転率は2.19回と驚異的です。

SNSマーケティングを駆使して、「作った瞬間(あるいは作る前)に売る」ようなドロップ形式をとっているため、在庫が倉庫で埃を被る暇がありません。

借入金を活用してM&Aを繰り返す「アセットライト志向」も相まって、少ない資本を高速回転させて利益を生み出しています。まさにF1マシンです。

ダブルエー (7683)

  • ROIC:約 9.7%
  • タイプ:管理されたスピード

婦人靴「ORiental TRaffic」を展開。ここも回転率1.90回と相当速い。

yutoriと違うのは、財務がコンサバ(借金少なめ)である点です。厚い自己資本を持ちながらこの回転率を維持しているのは、在庫管理能力が高い証拠。

「無理して飛ばしている」のではなく、「制御された速度」を感じます。

2. 「パワー」で押し切る重戦車

回転率はそこそこですが、圧倒的な「利益率(Power)」で高ROICを叩き出す企業です。

エービーシー・マート (2670)

  • ROIC:約 11.8%
  • タイプ:要塞型・高収益モデル

回転率は1.01回。yutoriの半分以下です。全国にリアル店舗網を持ち、在庫をどっさり抱えているので、どうしても動きは鈍くなります。

しかし、営業利益率は約16.8%と業界トップクラス。

なぜか? NB(ナショナルブランド)の限定品や、利益率の高いPB(VANSなど)が売れまくるからです。「値引きしなくても客が来る」というブランド力が、回転の遅さを補って余りある利益を生んでいます。

3. バランスお化け(ハイブリッド)

スピードとパワー、両方を兼ね備えた「完成形」です。

ファーストリテイリング (9983)

  • ROIC:約 15.6%
  • タイプ:規模 × 効率の怪物

ユニクロです。ABCマート並みの高利益率(16.1%)を確保しつつ、回転率も1.44回と高水準。

通常、これだけ巨大化すると組織も物流も鈍重になるはずですが、RFIDタグの全品導入や物流自動化で、むしろ効率が上がっています。

「象がチーターの速さで走っている」ようなもので、競合からすれば悪夢でしょう。

パルグループホールディングス (2726)

  • ROIC:約 14.5%
  • タイプ:ポートフォリオの妙

「3COINS(雑貨)」と「アパレル」の二刀流。

単価は安いが回転が爆速の雑貨事業(回転率2.01回!)が全体を牽引し、利益率の高いアパレルがそれを補完する。

性質の異なる2つの事業を組み合わせることで、全体として高ROICを実現しています。経営の手腕が光ります。


まとめ:数字の「中身」を見よう

今回分析した5社を整理すると、勝ちパターンが全く違うことが分かります。

企業名ROIC目安勝因(ドライバー)
ファストリ15.6%全部強い(反則級)
パルグループ14.5%雑貨のスピード + 服の利益
yutori12.3%SNS活用による超・回転力
ABCマート11.8%圧倒的な利益率とブランド
ダブルエー9.7%在庫管理による効率化

「ROICが高いから買い」と飛びつく前に、その数値が「マージン(利益)」で作られているのか、「回転(効率)」で作られているのかを確認する。

そうすることで、その企業が不況になった時に「値下げ圧力を受けやすいのか(利益率型のリスク)」、「在庫余りを起こしやすいのか(回転型のリスク)」が見えてきます。

さて、各社の「実力(ROIC)」は分かりました。

問題は、この実力に対して、現在の株価(バリュエーション)が「お買い得」なのかどうかです。

優秀な会社でも、高値で掴めば投資家は死にますからね。

次回の記事では、この5社の「割安性(PER/PBR)」について、冷徹にジャッジしていこうと思います。