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カテゴリー: 企業分析

ポートフォリオの「AI純度」がゼロなので、NVIDIAを支える日本の黒衣たちを並べてみた。

ポートフォリオの「AI純度」がゼロなので、NVIDIAを支える日本の黒衣たちを並べてみた。

正直に告白します。

私のポートフォリオには、今をときめくAIや半導体関連の銘柄が、ただの一つも入っていません。

連日のようにNVIDIAの最高値更新ニュースが流れてきますが、指をくわえて見ているだけです。

「今から飛びつくのは、あまりに分が悪い賭けだ」

理性のブレーキがそう叫ぶ一方で、

「このまま歴史的な富の移転(ゴールドラッシュ)を傍観していていいのか?」

という焦燥感があるのも事実です。

そこで、少し視点をずらすことにしました。

すでに過熱している採掘者(NVIDIA)そのものではなく、彼らにとって代替不可能な「ツルハシを売っている日本企業」なら、まだ私の規律(バリエーション)でも許容できる銘柄があるのではないか?

今回は、NVIDIAやIntelのサプライチェーンにおける「絶対的な独占企業」6社をピックアップし、その期待値(PER)の差を自分なりに整理した備忘録です。


「独占」のラベルは同じでも、評価は別物

まずは、各社の現在の立ち位置(PER)をざっと並べてみました。「世界シェアが高い」という事実は共通していても、市場からの愛され方には残酷なほどの格差があります。

(※PERは直近の概算値)

銘柄何のシェアが高いかPER (約)私の印象
アドバンテストテスタ (GPU向け)51倍完全にAIバブルの評価
レーザーテック検査装置 (EUV)40倍熱狂的な人気
ディスコ切断・研削装置36倍高嶺の花(プレミアム)
味の素絶縁材 (ABF)30倍食品にしては高い
TOWA封止装置 (HBM)27倍成長期待は乗っている
信越化学工業ウエハ (素材)18倍なぜか冷静(割安)

1. 完璧を織り込む「関所」銘柄たち

レーザーテック (6920) & ディスコ (6146)

この2社は、半導体製造における絶対的な「関所」です。

レーザーテックのEUV検査装置、ディスコの切断・研削装置。ここを通らなければ最先端のチップは作れません。ビジネスモデルとしては完璧、まさに「城」です。

しかし、PER 30倍〜40倍という数字は、製造業としては異常値です。

これは市場が**「彼らは今後、一切のミスを犯さず、期待通りに成長し続ける」**というシナリオを、すでに現在の株価に織り込んでいることを意味します。

企業としては尊敬しますが、投資対象として見ると「完璧が義務付けられた価格」は、私の臆病な胃袋には重すぎます。

アドバンテスト (6857)

さらに上を行くPER 50倍超。

GPU向けテスタで圧倒的とはいえ、これはもはやNVIDIA本体と同等の評価です。数年先の成功まで前借りしている感覚があり、リスク管理の観点からは「手出し無用」のゾーンに見えます。

2. 「不純物」ゆえの割安感

一方で、妙に現実的な評価に留まっているのが以下の銘柄です。

信越化学工業 (4063)

シリコンウエハの世界王者であり、TSMCからも表彰される超優良企業。利益率も30%を超えています。

それなのに、PERは18倍。

おそらく、半導体以外の事業(塩ビなど)が混ざっていることや、「化学メーカー」という地味な分類がディスカウント要因なのでしょう。

しかし、私のようなバリュー投資家にとっては、この「市場の冷めた評価」こそが安全域(マージン・オブ・セーフティ)に見えます。爆発力はないかもしれませんが、大怪我もしにくい水準です。

味の素 (2802)

「餃子の会社」だと思っていたら、実はCPUの絶縁材(ABFフィルム)でシェア100%というテック企業でした。

ただ、PER 30倍というのは食品株としては高く、テック株としては安いという絶妙なライン。ここも事業の複合性が判断を難しくさせています。


結論:今は「監視」という名のリスク回避

一通りリサーチしてみましたが、私の結論は「今はまだ動かない(動けない)」です。

  • 信越化学: 数字は魅力的だが、なぜ市場がこの評価に据え置いているのか、その「リスク要因」の解像度をもっと上げる必要がある。
  • 高PER群(レーザーテック等): 素晴らしい企業だが、今の株価は「期待」という名の空気でパンパンに膨らんでいる。

半導体セクターは技術の陳腐化が速く、勝者の入れ替わりも激しい世界です。「独占だから一生安泰」と決めつけて高値で飛びつけば、火傷では済みません。

今は焦燥感を抑え、市場全体が調整して「期待」が剥落したタイミングを待つこと。

「何も買わずに監視リストを磨くこと」もまた、重要な投資行動の一つだと自分に言い聞かせ、冷静にチャンスを伺おうと思います。

NVIDIAもIntelも頭が上がらない「最強の下請け」。信越化学が握るAIの急所と、私の冷めた計算結果。

NVIDIAもIntelも頭が上がらない「最強の下請け」。信越化学が握るAIの急所と、私の冷めた計算結果。

AIバブルの狂乱が続いています。 NVIDIAの株価が乱高下するたびに、投資家たちの悲鳴と歓声がSNSを埋め尽くす。 正直、私はそのダンスに参加する気にはなれません。あまりにも音楽のテンポが速すぎるからです。

しかし、こうも考えます。 「ゴールドラッシュで一番儲けたのは、金を掘った人間ではなく、ツルハシとジーンズを売った人間だ」

では、現代のAIゴールドラッシュにおいて、「NVIDIAですら頭を下げて買わざるを得ないツルハシ」を売っているのは誰か? リサーチの末にたどり着いたのは、地味で、堅実で、驚くほど高収益な日本の化学メーカー、信越化学工業(4063)でした。

今回は、世界のテック巨人が信越化学に依存せざるを得ない「証拠」と、私が弾いたそろばん(DCF法)の結果を共有します。


1. テック巨人が「あなたじゃなきゃダメだ」と言う証拠

「素材メーカーなんて、どこも一緒でしょ?」 そう思っているなら、認識を改めた方がいいかもしれません。信越化学は、単なるサプライヤーではなく「パートナー」という名のVIP待遇を受けています。

エビデンス①:TSMCからのラブコール

AI半導体の心臓部、NVIDIAのGPUを製造しているのは台湾のTSMCです。 そのTSMCが、毎年「Excellent Performance Award」という賞を発表しているのですが、信越化学はこれの常連です。

投資家の解釈: 「3nmプロセスの微細な回路を焼くためのフォトレジスト(感光材)とウェハは、信越さんの品質じゃないと歩留まりが出ないんです」 TSMCがそう言っているに等しいわけです。つまり、NVIDIAのGPUは、信越化学の素材の上でしか成立しない。これが物理的な現実です。

エビデンス②:Intelも依存する「素材の王様」

自前で工場を持つIntelも同様です。彼らのサプライヤー表彰(EPIC Distinguished Supplier Award)のリストにも、当たり前のように信越化学の名前があります。 IntelのCPUも、信越のウェハなしではただのシリコンの塊です。

エビデンス③:圧倒的なシェアという「独占」

  • シリコンウェハ:世界シェア1位(約30%〜40%)
  • フォトレジスト:トップシェア

半導体を作るための「画用紙(ウェハ)」と「インク(レジスト)」の最高級品を握られている以上、テック企業側に選択権はありません。 「嫌なら他所へどうぞ。ただし、品質は保証しませんが」という無言の圧力が、信越化学の利益率(30%超)を支えているわけです。


2. 「塩ビ」と「半導体」の奇妙な同居

信越化学の面白いところは、最先端の「半導体素材」と、泥臭い「塩ビ(水道管や住宅建材)」という、全く毛色の違う2つの事業を抱えている点です。

  • 塩ビ: 米国の住宅市場やインフラに連動。
  • 半導体: デジタル需要に連動。

一見ちぐはぐに見えますが、投資家としてはこれが心地よい。 「半導体が不況でも、米国の住宅が好調なら稼げる」 「住宅ローン金利が上がって家が売れなくても、AI需要があれば稼げる」

この「どちらに転んでも死なないポートフォリオ」こそが、信越化学の鉄壁の財務(自己資本比率80%超)の源泉です。


3. 計算してみた:今の株価は「買い」なのか?

いくら「良い会社」でも、「良い投資先(割安)」とは限りません。 現在の株価(4,500円)が正当化されるのか、DCF法で冷徹に計算してみました。

【計算の前提:悲観的に見る】 現在は「米国の住宅不況(塩ビ不振)」と「半導体在庫調整」のダブルパンチ状態です。楽観シナリオは排除し、かなり辛めの数字を入れます。

  • 成長率:+3%〜5%(マイルドな回復)
  • 営業利益率:30%→28%へ悪化させる

【計算結果】

  • 事業価値:約 7.1兆円
  • ネットキャッシュ:約 1.6兆円(ものすごい金持ちです)
  • 株主価値:約 8.7兆円

これを株数で割ると…… 理論株価:約 4,400円

【結論】 現在の株価(4,500円)とほぼ一致。 つまり、「適正価格(Fair Value)」です。

残念ながら「バーゲンセール」ではありませんでした。市場は、現在の業績の減速を極めて正確に織り込んでいます。 逆に言えば、これだけの優良企業に「プレミアム(割高感)」が乗っていない、という見方もできます。


4. 総括:退屈だが、枕を高くして眠れる投資先

結論として、信越化学は私のポートフォリオの「守護神」になり得ます。

NVIDIAのような爆発力(と、心臓に悪い値動き)はありません。 しかし、AI革命が続く限り彼らの素材は必要とされ続けるし、仮にAIバブルが弾けても、彼らには「塩ビ」と「莫大なキャッシュ」という防波堤があります。

「適正価格で、世界最強の素材メーカーを持つ」 バリュー投資の父、ベンジャミン・グレアムなら「悪くない取引だ」と言うでしょう。

派手なダンスフロアの隅で、静かにカクテルを傾けるような投資。 今の私には、それくらいが丁度いいのかもしれません。

村田製作所をDCF法で計算して、その「無意味さ」に気づいてしまった話。

村田製作所をDCF法で計算して、その「無意味さ」に気づいてしまった話。

前回の記事では、村田製作所が持つ「技術の堀」について確認しました。 エンジニアとして、彼らの積層セラミックコンデンサ(MLCC)が芸術品に近いことは理解しています。

しかし、投資家としての仕事は「良いものを買うこと」ではなく、「良いものを安く買うこと」です。 そこで今回は、Excelを開いてDCF法(割引現在価値法)という物差しを使い、村田製作所の適正価格を弾き出そうと試みました。

結論から言うと、計算はしました。数字も出ました。 でも、その作業の途中で「俺は台風の進路を定規で測ろうとしているんじゃないか?」という、強烈な虚無感に襲われたのです。

今日はその計算結果と、私が直面した「理屈の限界」についてシェアします。


1. 机上の空論(計算の前提)

まずは、教科書通りに計算してみます。 AIやEVという「希望」と、スマホ市場の飽和やサムスンの猛追という「現実」をミキサーにかけて、以下のような巡航速度を設定しました。

① 売上成長率:年率 +5.0% スマホの台数はもう伸びませんが、AIサーバーやEV向けで単価が上がる(質的成長)と仮定して、まあこれくらいでしょう。

② 営業利益率:18.0% かつてのような「利益率20%超え」を前提にするのは、サムスンがいる以上楽観的すぎます。高付加価値品へシフトして、なんとか18%を死守するシナリオです。

③ 実質キャッシュフロー:利益の50% これが一番痛い。装置産業の宿命として、彼らは競争力を維持するために巨額の設備投資を続けなければなりません。稼いだ金の半分は、次の設備に消えると仮定します。


2. 計算結果:理論株価 2,730円

この前提で、将来5年間のキャッシュフローを積み上げ、割引率(WACC)7.0%で現在価値に割り戻しました。

  • 事業価値:約 4.75兆円
  • ネットキャッシュ:約 0.6兆円
  • 株主価値:約 5.35兆円

これを発行済株式数で割ると…… 理論株価:約 2,730円

現在の株価は3,033円前後(執筆時点)。 つまり、「今の株価は10%ほど割高(期待先行)」という結果が出ました。


3. この計算、意味あるか?

数字だけ見れば、「今は高いから、2,700円まで落ちてくるのを待とう」となります。 これまでの私ならそうしたでしょう。

しかし、計算式のセルを眺めていて、ふと我に返りました。 「半導体業界で、5年先まで年率5%で安定成長する前提なんて、果たして置けるのか?」

DCF法は、コカ・コーラや鉄道会社のような「予測可能な未来」を持つ企業には有効です。 しかし、ここはドッグイヤーのハイテク業界です。

  • もし明日、MLCCを不要にする「シリコンキャパシタ」の革命が起きたら?
  • もしサムスンがシェア奪取のために、利益度外視の価格破壊を仕掛けてきたら?

その瞬間、私の作った精緻なExcelモデルはただの紙屑になります。 変化の激しい戦場において、「安定成長」を前提とした計算機を叩くこと自体が、ある種の傲慢さではないか。そう感じてしまったのです。


4. 結論:安泰な城などない

結局のところ、村田製作所に対する私の評価はこうです。 「モノは最高。でも、安泰な城ではない」

理論株価(2,730円)と現在株価(3,033円)の差額は、市場が抱いている「村田ならなんとかしてくれるだろう」という信仰のプレミアムです。これを払ってでも乗るか、降りるか。

私は一旦、保留にします。 「村田製作所一択」で思考停止するには、このセクターのリスクは高すぎます。

同じリスクを取るなら、電池で覇権を狙うTDKはどうだ? あるいは京セラ? もっと上流の素材メーカーの方が、技術変化の波を被りにくいんじゃないか?

今回の計算で得られた最大の収穫は、「適正株価」という答えではなく、「もっと視野を広げないと火傷するぞ」という警告だったのかもしれません。

比較検討の旅は、もう少し続きそうです。

世界シェア40%。村田製作所の「ブラックボックス」を覗いたら、背後に巨人の影が見えた話。

世界シェア40%。村田製作所の「ブラックボックス」を覗いたら、背後に巨人の影が見えた話。

世間がNVIDIAの株価に一喜一憂している狂騒を横目に、私はあえてステージの床下を支える日本企業、村田製作所(6981)について調べていました。

「電子部品」 この響きには、どこかコモディティ(買いたたかれる汎用品)の匂いがします。 中韓メーカーの安値攻勢に晒され、スマホ不況で沈む未来しか待っていないのではないか?

そんな偏見を持ってリサーチを始めましたが、技術の裏側と、ライバルである韓国サムスン電機の一次情報を掘り下げていくうちに、認識は覆されました。 そこにあったのは、想像以上に深い「堀」と、それすら埋めようとする恐ろしい「敵」の存在でした。


1. そもそも何を支配しているのか?

村田製作所の正体。それは極論すれば「MLCC(積層セラミックコンデンサ)屋」です。 売上の4割、利益の大半をこの小さなチップで稼ぎ出しています。

驚くべきはそのシェアです。 世界シェア 約40%。

ハードウェアの世界において、単独で4割を握るというのは異常事態です。 2位のサムスン電機(約24%)を引き離し、特に利益率の高い「車載・ハイエンド向け」に限れば、TDKと合わせた日本勢で8割以上を独占しているとも言われます。 この「数の暴力」こそが、彼らの収益の源泉です。

2. なぜ他社は真似できないのか?(エンジニアが嫉妬する技術)

今回、最も腹落ちしたのがここです。 「たかが部品だろ? 設備投資すれば中国メーカーでも作れるのでは?」 私はそう思っていました。しかし、それは間違いでした。

村田製作所の正体は、組み立て屋ではありません。「化学メーカー」です。

多くの部品メーカーは、材料(セラミックの粉)を仕入れて成形します。しかし、村田は「材料の粉」から自社で作っていました。 MLCCの性能は、「粉をいかに均一に、薄く延ばせるか」で決まります。彼らは自社配合の「粉」に合わせて、それを加工する「製造装置」まで内製化しています。

「素材から装置まで、全部俺たちが作る」 この完全なる垂直統合により、製造プロセスはブラックボックス化されています。これでは、汎用の製造装置を買ってきて並べるだけのメーカーが勝てるわけがありません。

3. 「スマホの次」はあるのか?

「でも、スマホはもう売れないでしょ?」 その通りです。しかし、村田の主戦場はすでに「数(スマホ)」から「質(AI・EV)」へシフトしています。

① AIサーバー(熱との戦い) NVIDIAのGPUを積んだサーバーは、凄まじい熱を発します。普通のコンデンサなら溶けるか機能停止する環境です。ここでは「高耐熱・高電圧」の特殊品が必須となり、単価は何倍にも跳ね上がります。

② EV(1台に1万個の世界) ガソリン車が1台3,000個なのに対し、ハイエンドEVは1台で1万個以上のMLCCを飲み込みます。 しかも、ここは人命に関わる聖域です。「安いから」という理由で品質の怪しい中国製を使うメーカーはいません。

スマホの台数は減っても、一台あたりの「村田依存度」は劇的に上がっている。これが実態です。

4. 唯一にして最大のリスク:サムスンの「宣戦布告」

ここまでなら「村田製作所、買い一択」で終わる話です。 しかし、私はある資料を見てしまい、マウスをクリックする手を止めました。

最大のライバル、サムスン電機(Samsung Electro-Mechanics)の決算説明資料(Earnings Release)です。

噂レベルではなく、彼らが投資家向けに公開している一次情報に、明確な「攻撃宣言」が記されていました。

“Expand supply of high-end products for industrial/automotive applications including AI servers.” (AIサーバーを含む産業用・車載用へのハイエンド製品供給を拡大する)

背筋が冷えました。 これまで村田が独占していた「AI・車載」という聖域に対し、サムスンが真正面から「獲りに行く」と宣言しているのです。

彼らには、グループ内にメモリやロジック半導体を持つ強みがあります。「半導体とコンデンサをセットで供給する」というパッケージ提案をされたら? 技術力で勝っていても、商流で負けるシナリオは十分にあり得ます。


結論:最強の職人と、背後のスナイパー

リサーチを終えた私の結論はこうです。

「村田製作所は、世界最強の職人である。だが、背後にはサムスンというスナイパーが銃口を向けている」

AI・EV時代の主役になれるポテンシャルは十分です。今の株価水準も魅力的です。 しかし、私はまだフルベットできません。

サムスンの「宣戦布告」が、単なるハッタリなのか、それとも村田の利益率を削り取る現実の脅威となるのか。 投資判断を下すのは、次の四半期決算で彼らの「営業利益率」を確認してからでも遅くはない。そう判断しました。

疑い深いと言われるかもしれませんが、それが私の生き残り戦略なのです。

なぜドーン(2303)は、理論株価より30%も安いのか? プロが入れない「小さな水槽」の歩き方。

なぜドーン(2303)は、理論株価より30%も安いのか? プロが入れない「小さな水槽」の歩き方。

私のポートフォリオの片隅に、地味ですが妙に愛着のある銘柄がいます。 ドーン(2303)。 警察や消防向けの地図情報システムを手掛ける、いわゆる「Gov-Tech(行政テック)」企業です。

直近の株価は2,000円前後(執筆時点)。 チャートだけ見れば横ばいで退屈そのものですが、実はこの価格、企業の「稼ぐ力」と「保有現金」から逆算すると、異常なバーゲン価格で放置されているのです。

なぜ、利益率30%超えの超優良企業が、こんな値段で売られているのか? そこには、株式市場の構造的なバグである「流動性プレミアム」が存在します。

今回は、私が弾いたそろばん(DCF法)の中身と、なぜこの「歪み」が修正されないのかという市場のカラクリについて解説します。


1. 「割安」の証明(DCF法による理論株価)

「なんとなく安い」は感想ですが、「計算上安い」は事実です。 ドーンは官公庁相手のストックビジネス。解約率が極めて低く、未来の収益が見通しやすいので、DCF法との相性は抜群です。

【計算の前提:あえて保守的に】 夢物語にならないよう、かなり堅実なパラメータを設定しました。

  • 売上成長率:年率 +5.0%
    • 自治体DXの波を考えれば、無理のない巡航速度です。
  • 営業利益率:32.0%
    • これがドーンの真骨頂。受託開発ではなく「ライセンス」で稼ぐため、原価率が低い。30%超えの高収益体質は今後も続くと仮定します。
  • 割引率(WACC):6.0%
    • 顧客が日本国政府(のようなもの)なので、貸し倒れリスクは皆無。実質無借金なので、投資家が求めるリスクプレミアムは低くなります。

【シミュレーション結果】 この前提で、向こう5年間のキャッシュフローを積み上げると、彼らは毎年3〜4億円の現金を確実に積み上げていく計算になります。

  • ① 事業価値(稼ぐ力):約 72.7億円
  • ② ネットキャッシュ(手持ち現金):約 28.0億円
    • ここが重要。時価総額の4割近い現金を、ただ金庫に眠らせています。
  • ③ 株主価値(①+②):約 100.7億円

これを株数で割ると…… 理論株価:約 3,051円

現在の株価(2,000円)に対し、約1.5倍(+50%)の上昇余地があります。 つまり、本来的には3,000円の価値がある財布が、なぜか2,000円で売られている状態です。


2. なぜ放置されているのか?(流動性の罠)

「そんなに美味い話なら、なぜプロの投資家が買わないんだ?」 当然の疑問です。しかし、そこには明確な理由があります。

「水槽が小さすぎて、クジラ(機関投資家)が入れないから」です。

ドーンの時価総額は60〜70億円規模。1日の売買代金も数千万円レベルです。 数千億円を運用するファンドマネージャーにとって、この規模は投資対象になり得ません。

  • 買えない: 数億円分買おうと注文を出したら、自分の買いで株価が暴騰してしまう。
  • 売れない: 逃げたい時に買い板が薄すぎて、売るに売れない。

プロたちは「中身が良いのは分かっている。でも、仕事として買えない」と指をくわえて見ているのです。 この「プロ不在」の空白地帯こそが、株価が理論値(3,050円)にサヤ寄せされず、割安なまま放置されている真犯人です。


3. 個人投資家だけが享受できる「不便益」

しかし、これは私たち個人投資家にとっては最高の環境です。 私たちはクジラではありません。数千株程度なら、いつでも問題なく泳げます。

つまり、ドーンへの投資は以下のようなボーナスステージです。

  1. 機関投資家が立ち入れない「聖域」で、
  2. 本来3,000円の価値がある「高収益&キャッシュリッチ企業」を、
  3. 「流動性が低い」という理由だけで、3割引で独占的に仕込める。

市場の「不便さ」を引き受ける対価として、将来的なリターンが約束されている状態。 私はこれを「不便益」と呼んで愛好しています。


まとめ:静かなる「歪み」を拾う

株価が動かないことを嘆く必要はありません。 計算ロジックが正しければ、今の株価は「3割引セール」が常態化しているだけです。

いずれ企業が成長して時価総額が大きくなり、機関投資家のレーダーに引っかかる時。 あるいは、溜め込んだキャッシュを使って自社株買いや増配が行われる時。

その瞬間、この「流動性ディスカウント」は解消され、株価は理論値へと一気に跳ね上がるでしょう。 それまでは、この歪みの構造を理解している投資家だけが、静かにその価値を享受しておけばいいのです。

人気のない路地裏にこそ、本当の名店がある。 株式市場もまた、同じなのかもしれません。