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カテゴリー: 企業分析

USS (4732):盤石な財務の「奥」に潜む、見えない次元の成長コード

USS (4732):盤石な財務の「奥」に潜む、見えない次元の成長コード

投資において最も知的な興奮を覚えるのは、決算書の「完璧な数字」を確認した時ではなく、その数字を作っている「構造の秘密」に触れた時です。

USS(4732)という企業。 市場のコンセンサスは、あくまで「国内の中古車を、国内で回す高収益企業」という「可視化された次元」に留まっています。 「人口減少で国内市場は成熟した」という前提だけで見れば、PER20倍前後の評価は妥当なラインに見えるかもしれません。

しかし、公開されている「USSデータブック2025」をエンジニア的な視点でデバッグしていくと、そこには表向きの財務数値とは別の、「見えない次元」が駆動している可能性が浮かび上がってきます。

今回は、圧倒的な財務データを確認しつつ、その裏側で機能している「隠れた成長レイヤー」について考察します。

1. 「表」の強さ:バグのない完璧な財務スコア

まず、投資家として無視できないのが、USSが叩き出している「異常」とも言える財務パフォーマンスです。ここが投資の前提(ベースライン)となります。

  • 圧倒的なシェア: 国内オートオークション市場でのシェアは約40%。2位以下を大きく引き離す「一強」状態です。
  • 驚異の利益率: 営業利益率は40%台後半(2024年3月期実績)。製造業では考えられない、プラットフォーマーならではの高収益体質です。
  • 鉄壁の財務: 自己資本比率は80%に迫る水準。借入金に依存しない、極めてクリーンなバランスシートを持っています。

これだけでも十分に「買い」の理由は立ちますが、市場はこう反論します。 「確かに財務は美しい。しかし、国内のパイ(保有台数)が減る以上、これ以上のスケーラビリティ(拡張性)はないのではないか?」

この「正論」に対する私なりの回答が、次に述べる「データの行間」にあります。

2. 「裏」の変数:157万台の輸出を支えるもの

データブックには、財務省貿易統計として「年間157万台の中古車輸出」という数字が引用されています。 私が注目したのは、この巨大なトラフィックの「発生源」です。

日本の公道を走っていた車が、年間157万台も海外へ渡っている。 では、この膨大な車両は一体どこで調達され、どこでマッチングされているのでしょうか?

個々の買取店が、アフリカのバイヤーやロシアの仲介業者と個別に取引をしているとは考えにくい。これほど多種多様なスペック(車種、年式、状態)の需要と供給を結合させるには、「巨大なバックエンド・システム」が不可欠です。

ここで、USSの取扱台数(年間出品約300万台規模)というデータを重ね合わせると、ある構造が見えてきます。 公式に明言こそされていませんが、「日本の輸出市場というシステムは、USSというデータベースを経由しなければ、止まってしまうのではないか」という構造的な推論です。

3. 「意図せざるプラットフォーム」としての機能

市場はUSSを「国内オークション会場」と定義しています。 しかし、この「157万台」という出力を支えるインフラとしてUSSを捉え直すと、全く異なる景色が広がります。

輸出業者は、世界中のオーダーに応えるため、USSという巨大なプールにアクセスせざるを得ない。つまり、USSは「世界と日本を繋ぐインターフェース(接続点)」として機能してしまっているのです。

このアーキテクチャの凄まじい点は、リスクは徹底的に外部化(アウトソーシング)しているにもかかわらず、「海外市場の拡大」というメリットだけは、しっかりと自社の利益として取り込めている点です。

これをシステム設計の観点から見ると、非常に堅牢なアーキテクチャになっています。

  • 輸出業者(クライアント): 為替や規制、輸送といった「外部リスク」を負って処理を実行する。
  • USS(サーバー): リスクを負わず、安定した「接続環境」を提供するだけで手数料を得る。

世界の新興国でモータリゼーションが進み、日本車の需要が増えれば増えるほど、輸出業者はUSSで必死に車を買い付けます。 結果として、USSは「通貨リスクも輸出リスクも一切取っていないのに、グローバル経済の成長恩恵だけをフル享受できる」という、いわば「バグ技」に近い最強のポジションを確立しているのです。

この「リスク遮断」と「利益接続」の巧みな分離こそが、営業利益率40%超という驚異的な数字の正体であり、私がこの銘柄を買える理由の一つとなっています。

テキストには書かれない「余白」を読む

もちろん、これは決算説明会で語られるような公式見解ではありません。 しかし、データブックの数字と市場構造を論理的に繋ぎ合わせると、「国内循環の会社」という既存の評価軸だけでは説明がつかない「余白」が存在します。

  • 「盤石な財務」という守りの盾。
  • 「世界への接続」という攻めの矛。

この両方を兼ね備えていると仮定すれば、現在の株価水準に対する評価は大きく変わるはずです。

市場が目に見える「国内の減速」を懸念している間に、データの奥にある「見えない次元」に目を凝らしてみる。 そういった「仮説の答え合わせ」を静かに楽しむのも、長期投資家ならではの知的な遊戯(ゲーム)ではないでしょうか。


参照ソース: USS Databook 2025 (PDF)

コタ(4923):信号機より多い「27万店」の美容院パラドックス。数字から滲み出る「生々しい」話

コタ(4923):信号機より多い「27万店」の美容院パラドックス。数字から滲み出る「生々しい」話

「日本の人口という変数は減っているのに、美容室というオブジェクトは増え続けている。このシステムの挙動は正常か?」

エンジニアとしてモニター上の数値を追っていると、ふとそんな疑問が湧きます。 しかし、そのデータの裏側——いわばソースコードの深層を想像したとき、そこには単なる需給ギャップでは説明のつかない、人間ならではの「熱量」と「悲哀」が書き込まれていることに気づきました。

今回は、コタ(4923)という企業を題材に、私の仮説(むしろ妄想)を交えつつ、投資分析の面白さについて少し語らせてください。

1. 「27万」という異常値(外れ値)

まず、ファクトの確認です。厚生労働省のデータによると、美容室の数は約27万4,000軒。 これは、社会の制御システムである「信号機(約20万機)」よりも多い数字です。

システム設計の定石で言えば、明らかに無駄に多すぎる状態です。 帝国データバンクが示す「過去最多の倒産」は、市場というシステムが強制的に最適化を行っているエラー処理の結果とも言えるでしょう。

これだけ見れば、投資対象としては「バグ(リスク)だらけの環境」です。 しかし、なぜかその中で、コタの業績グラフだけが、極めて安定した波形を描き続けています。

2. 営業担当という「泥臭いインターフェース」

なぜコタだけが、この過酷な環境でエラーを起こさないのか。 財務諸表というログを読み解くと、彼らの営業担当者が担っている役割の「重さ」が見えてきます。

彼らは単に商品を納品するデリバリー係ではありません。 独立という夢を抱え、しかし経営のリテラシーが未実装なまま荒波に出たオーナーに対し、「生存するためのロジック」をインストールする役割を担っています。

これは、想像以上に「生臭い」現場のはずです。

  • 「夢だけではキャッシュは回りませんよ」という冷徹な指摘。
  • 明日の売上に怯えるオーナーとの、膝を突き合わせた対話。
  • 廃業していく店を看取ってきた、数え切れないほどの記憶。

コタの営業担当は、こうした「現場のノイズ(感情や不安)」を正面から受け止め、それを経営数値という「秩序」に変換しようと日々、汗をかいている。 そう考えると、彼らのビジネスモデルは、極めてアナログで高負荷な「人間力」によって支えられていることが分かります。

3. データから伝わる「芯の強さ」

もちろん、ここまで書いたことは、外部の投資家である私の「妄想」の域を出ないかもしれません。 実際に現場を見たわけではありませんから。

しかし、コタの高い自己資本比率や、長期で維持されている利益率といった「数字」を見ていると、どうしてもそう思わざるを得ないのです。 現場で相当な熱量を持ったやり取りが行われていなければ、これほど美しい数値が継続的に出力されるはずがない、と。

表面上の数字はクールですが、そのバックエンドでは、コタの社員と美容師たちが、生き残りをかけて必死にシステムを回している。 そんな「芯のある商売」の気配が、決算書の端々から伝わってくるのです。

投資分析は「人間の業」に触れること

今回は「買い」や「売り」といった単純なシグナルの話ではありません。

一見すると不合理に見える市場でも、そこには「独立したい」という人間の業(ごう)があり、それを支えようとする企業の「覚悟」がある。 そうした人間ドラマが、最終的に「株価」や「業績」という数字に集約されていく。

コタという銘柄を通じて、そのプロセスを想像できたことは、私にとって非常に興味深く、学びのある体験でした。 たまにはモニターの数字から離れ、その向こう側にある「人の営み」に想いを馳せてみるのも、投資家の密かな楽しみ方なのかもしれません。


【参照データソース】

リクルート(6098):「例外」なきシステム。米国不況を無効化するロジックと、Microsoftとの邂逅について。

リクルート(6098):「例外」なきシステム。米国不況を無効化するロジックと、Microsoftとの邂逅について。

これまで私はリクルートを、自分の詳細な観測範囲に入れていませんでした。 「人材系の最大手でしょう?」といった程度の認識で、あえて深入りしてこなかった、というのが実情です。

しかし、市場で高いパフォーマンスを上げているいくつかのアクティブファンドのポートフォリオ(組み入れ銘柄)を眺めていた時のことです。あまりにも多くのファンドが、この「リクルート」を主力として採用している事実に気づきました。

「なぜ、プロたちはこぞってこの銘柄を選ぶのか?」 その理由が気になり、この企業のビジネスモデルを解析し、解像度を上げてみることにしました。

すると見えてきたのは、「米国不況という逆風」さえも織り込んで稼ぐ、驚くべきサービスでした。今回は、私がリサーチ中に感じた驚きと発見を共有したいと思います。


1. ノイズか、シグナルか:米国の求人数「激減」の意味

まず、私がリサーチの初期段階で感じた懸念は、「米国景気後退(リセッション)リスク」への脆弱性です。 稼ぎ頭である「Indeed」が米国の労働市場に依存している以上、米国経済が減速すれば、リクルートの業績も深刻なダメージを受けるはずです。

実際、2025年3月期・第2四半期の決算資料という「ログ」を確認すると、懸念は現実のものとなっていました。

  • Indeed上の求人件数: 前年同期比 約 8% 減少

これは看過できない数字です。 コロナ後の特需という「ボーナスタイム」が終了し、企業が採用ポートを閉じ始めている証拠です。 通常のビジネスモデルであれば、販売数量が8%も落ちれば、減収減益は免れません。株価にとっては致命的な欠陥となり得るでしょう。

2. 異常値の検出:なぜ「減収」しないのか

しかし、リクルートが発表したトップライン(売上収益)を見て、私は自分の目を疑いました。

  • HRテクノロジー事業(米国)の売上収益: ドルベースで 約 5.8% の増収

「求人(数量)が減っているのに、売上(金額)が増えている」。 一見すると矛盾するこの現象。そのロジックを紐解くと、強烈なパラメータ調整が行われていることが判明しました。

  • 求人単価: 前年同期比で 約 15% 上昇

リクルートは、求人数の減少分を、掲載単価の引き上げで見事に相殺、いや、それ以上にカバーしていたのです。 「不況下であっても、どうしても人が欲しいのであれば、それ相応の対価を払うべきである」。 この強気なプライシングが市場で承認されてしまう事実。これこそが、リクルートが単なる人材斡旋業者ではなく、市場のルールそのものを支配する「プラットフォーマー」であることの証明です。

日本企業がこの分野で海外で数量減を単価増でねじ伏せる。あまりに美しい、しかし恐ろしいほど冷徹だと感じました。

3. まさか「Microsoft」を調べることになるとは

彼らの「主戦場」は日本ではない

「一体、なぜここまで強気な設定が通るのか?」 その疑問の答えを探すため、私はさらに決算短信を読み、世界の競合他社との比較に入りました。 そこで、さらに大きな認識のズレに直面することになります。

当初、私は日本の人材大手(パーソルやパソナなど)と比較するつもりでした。 私たちは普段、街中で「リクナビ」や「SUUMO」の広告を目にするため、リクルートを「日本のドメスティックな企業」だと思い込みがちです。しかし、直近の売上収益の構成比率を見て愕然としました。

  • 日本国内の売上: 全体の約 1/4
  • 海外(主に米国)の売上: 全体の約 3/4

これがファクトです。 事業の数や種類こそ日本国内の方が多いものの、稼ぐ金額のスケールにおいて、もはや日本はメインストリームではないのです。 「日本の会社が海外進出している」のではなく、「グローバル企業が、たまたま日本に本社を置いている」と定義し直すべきレベルでしょう。

銘柄売上高営業利益率ビジネスモデル
リクルート (6098)約 3.4兆円約 15%前後プラットフォーム
パーソルHD (2181)約 1.3兆円約 4〜5%人材派遣 (労働集約)
パソナ (2168)約 0.4兆円約 4〜5%人材派遣 (労働集約)

この解像度で市場を見渡したとき、比較対象はもはや日本の競合ではありませんでした。 Indeedが戦っている本当の相手は、世界にたった一つ。Microsoftが擁する「LinkedIn」しかなかったのです。

  • Indeed (リクルート): 検索エンジン型。全方位を網羅する「求人のGoogle」。
  • LinkedIn (Microsoft): SNS型。ホワイトカラーやハイクラス層のデータベースを持つ。

米国の中堅競合であるZipRecruiterが赤字転落して脱落していく中、Microsoftと正面から殴り合い、世界シェアを奪い合う。 まさか日本の銘柄を分析していて、Microsoftとシェア争いの話をするとは思わなかった

4. PER30倍でも「調べる価値」はある

これまでの私は「PER20倍以下じゃないと買わない」というバリュー株の基準で見ていました。 しかし、リクルートのような「クオリティが極めて高い企業」には、常にプレミアムがつくのが市場の常識です。

  • 圧倒的なネットワーク効果(堀)
  • テック企業としての高収益体質
  • 不況でも値上げできる価格決定権

これらを加味すれば、PER30倍は「許容範囲」かもしれません。 むしろ、株価が調整している今は、エントリーのタイミングを計る上で絶好のチャンスに見えます。

「高いからパス」と思考停止するのではなく、「このプレミアムを払ってでも、この最強のビジネスモデルを保有する価値があるか?」 そう自問しながら、見ていきたい思います。

J-REITの出口戦略。私が「まだ売らない」と決めた、単純すぎる2つの根拠

J-REITの出口戦略。私が「まだ売らない」と決めた、単純すぎる2つの根拠

ポートフォリオの6割が「不動産(J-REIT)」で埋まっている現状は、正直に言えば居心地が悪いものです。

前回の記事でも触れましたが、私の本音としては、とっととこの偏りを是正し、次の資金循環——テック株や素材産業——へ駒を進めたい。エンジニアとしての本能が、これからの技術革新へベットしろと囁くからです。

しかし、市場は私の「飽き」や「焦り」とは無関係に動きます。

感情で売買ボタンを押すのは、投資ではなくただの消費です。規律ある投資家でありたいなら、売却のトリガーは常に冷徹な数値で引かねばなりません。

では、どの数値を見るか。

私はプロのファンドマネージャーではありません。個別のオフィスビルの空室率や、テナントの契約更改の機微まで読み解くのは、私の「能力の輪」の外側にある行為です。それを無理してやろうとすると、解像度の低い情報を信じ込む「知ったかぶり」のリスクを負うことになる。

だから私は、あえて変数を絞ります。

私がJ-REITの売り時を判断するために監視しているのは、誰もが確認できる、けれど多くの人が軽視しがちな「2つの指標」だけです。


私が設定している「撤退の閾値」

複雑なモデルを組めない私が、唯一の規律として定点観測しているのが以下の2点です。教科書的な定義よりも、私の「生活実感」としての解釈を添えておきます。

1. イールドスプレッド(利回り差)

計算式: J-REIT分配金利回り - 10年国債利回り

要は「リスクを取る対価として、国債よりどれだけ多く貰えるか」という指標です。

REITは価格変動リスクがある商品です。元本保証の国債と利回りが変わらないなら、わざわざREITを持つ合理性はありません。この差(スプレッド)が縮小するということは、私の感覚で言えば「夜ぐっすり眠るためのコスト」が払われていない状態です。

【私の規律】

  • 3.0%以上: リスクに対する「手当」は十分。保有継続。
  • 2.5%以下: リスクに見合わない。割高と判断し、機械的に売却検討。

2. NAV倍率(純資産倍率)

計算式: 株価 ÷ 1口当たり純資産額

保有している不動産を今すぐ売り払って借金を返した時、手元に残る現金(解散価値)に対して、今の株価が何倍かを示す数字です。

スーパーで1,000円の肉が900円で売られていれば「買い」だし、1,200円なら「プレミアムがついている」と判断する。それだけの話です。

【私の規律】

  • 1.0倍割れ: 明確なバーゲン(不動産価値以下)。売る理由なし。
  • 1.0倍〜1.1倍: フェアバリュー(適正)。
  • 1.1倍以上: 加熱気味。人気投票の様相を呈しているので警戒。

実践判定:今、ボタンを押すべきか

では、2025年11月の数値を、私の主力2銘柄に当てはめてみましょう。「売りたい」という私の感情を、数字はどうジャッジするか。

① 【インデックス】NF J-REIT(1343)

市場全体(東証REIT指数)の平均値です。

指標現在の数値(概算)私の判定
分配金利回り4.25%
10年国債利回り1.10%
イールドスプレッド3.15%保有継続(2.5%までのマージンあり)
NAV倍率0.93倍保有継続(解散価値割れ)

【結論】

全く売る段階にありません。

スプレッドは3.15%もあり、NAV倍率はまさかの1倍割れ。市場は不動産の価値を過小評価しています。これを売るというのは、1,000円札が入った財布を930円で他人に譲るようなものです。退屈ですが、ホールド一択です。

② 【個別株】ジャパン・ホテル・リート(8985)

インバウンド需要で話題のホテル特化型です。こちらは感情的には「そろそろ利益確定したい」という誘惑に駆られやすい銘柄です。

指標現在の数値(概算)私の判定
分配金利回り4.60%
イールドスプレッド3.50%保有継続(十分なリスクプレミアム)
NAV倍率1.02倍保有継続(加熱感なし)

【結論】

こちらも、数字は「NO」と言っています。

NAV倍率は1.02倍。インデックスよりは評価されていますが、ホテル系REITは好況時にプレミアム(NAV 1.1〜1.3倍)が乗るのが常です。今のインバウンドの活況を考えれば、1.02倍はまだ「平熱」の範囲内。

何より、国債に対して3.5%もの上乗せ金利が得られている現状で手放すのは、投資効率の観点から見て悪手です。


思考の整理

複雑なことを考えようとせず、この2つの定規だけを当てた結果、結論は明白でした。

「まだ、席を立つ時間ではない」

市場全体(NF J-REIT)はバーゲン状態であり、個別株(ジャパン・ホテル・リート)にも熱狂ごとき過熱感はありません。「とてつもないチャンス」ではありませんが、少なくとも今売れば、それは「論理」ではなく「気まぐれ」による売買になってしまいます。

私はテック株へ行きたい。新しいセクターへ資金を移したい。

けれど、私の定めた規律が「待て」と言っている以上、それに従うのがエンジニアであり投資家としての私です。

スプレッドが2.5%を切るか、NAVが不合理なほど高騰するその時まで、配当という名の「待ち賃」を受け取りながら、もう少しこの退屈な不動産ポジションと付き合うことにします。

PER18倍の信越と、40倍のレーザーテック。市場が「混ぜ物」を嫌う理由と、私がそこに見出す妥協点。

PER18倍の信越と、40倍のレーザーテック。市場が「混ぜ物」を嫌う理由と、私がそこに見出す妥協点。

AI相場の波に乗ろうと半導体関連の日本株をリサーチしていた時、数字の「歪み」に酔いそうになりました。

レーザーテック、PER 40倍。 アドバンテスト、PER 50倍超。

「期待値が高い」といえば聞こえはいいですが、バリュー投資を志向する身としては、この高所恐怖症になるような価格帯には到底手が出せません。

しかし、ふと視線を横に向けると、世界シェアNo.1の巨人が、妙に常識的な価格で放置されていることに気づきます。 信越化学工業、PER 18倍。

同じ「世界シェア1位」の半導体関連銘柄でありながら、なぜこれほど評価に断絶が生まれるのか? この差を突き詰めていくと、株式市場という場所がいかに「純度」に対して潔癖か、という事実が見えてきました。

今日はこの「事業の純度」という物差しと、それを踏まえた私の生存戦略について整理します。


1. なぜ「混ぜ物」があるほど安くなるのか

まず、半導体セクターのPERのばらつきを並べてみます。(※数値は執筆時点の概算)

  • レーザーテック(約40倍): 半導体検査装置(専業)
  • アドバンテスト(約51倍): 半導体テスタ(専業)
  • 信越化学(約18倍): 半導体シリコンウエハ + 塩ビ(住宅・インフラ)
  • 味の素(約30倍): 半導体絶縁材 + 食品(餃子・調味料)

一目瞭然ですね。 PERが高い企業は、事業の100%が半導体一本足です。いわゆる「ピュア・プレイヤー」です。 対して、PERが低い(割安な)企業には、必ずと言っていいほど「半導体とは関係ない別の事業(混ぜ物)」が含まれています。

信越化学なら「塩ビ(住宅)」、味の素なら「食品」。 投資家心理としては、こういうことです。

「俺はAIの未来にフルベットしたいんだ。住宅市場のリスクや、餃子の売れ行きなんてノイズはいらない」

プロのファンドマネージャーになればなるほど、この傾向は顕著でしょう。「AIファンド」を運用しているのに、組み入れた信越化学が「米国の住宅不況で減益しました」では、顧客に説明がつかないからです。

この「使い勝手の悪さ」が、株価におけるディスカウント(割引)要因となります。金融用語で言う「コングロマリット・ディスカウント」の正体です。

2. 他業界でも起きる「純度」の格差

この「純粋なものは高く、混ざったものは安い」というルールは、半導体に限った話ではありません。

  • テスラ(かつてのPER 100倍超): EV純度100%。EVの未来そのものを買うチケット。
  • トヨタ(PER 10倍前後): 世界一売っているが、ガソリンもHVも金融もやっている。「EVだけ」を切り出せない。
  • カプコン(高PER): ゲーム専業。ヒットすれば株価は青天井。
  • ソニーG(中PER): ゲームは覇権だが、映画も音楽も、あろうことか金融(銀行・保険)まで抱えている。分析が複雑すぎる。

市場は、複雑さを嫌い、シンプルさを愛します。 「これさえ買っておけば、そのテーマの恩恵を100%享受できる」という分かりやすさにこそ、プレミアム(高PER)が支払われるわけです。

3. あえて「不純物」を愛する戦略

では、私たち個人投資家はどう動くべきか? 「PERが高いピュアな企業を買うのが正解」なのでしょうか。

私は逆だと思っています。 むしろ、市場が嫌う「混ぜ物(不純物)」こそが、長期投資における安全装置になると考えるからです。

PER40倍のレーザーテックは、半導体市況が悪化すれば逃げ場がありません。「純度100%」とは、リスクも100%直撃することを意味します。

一方で、PER18倍の信越化学はどうか。 もし半導体バブルが弾けても、彼らには「インフラとしての塩ビ」があります。味の素には、不況でも売れる「食品」があります。

  • 高PER(専業): 攻めの投資。テーマの恩恵を最大化するが、脆い。
  • 低PER(複合): 守りの投資。爆発力はないが、事業ポートフォリオ内でリスクを相殺できる。

私はビビりな性格なので、特定の未来(AI一強など)に資産の全てを賭ける勇気はありません。 だからこそ、市場が「不純物が混ざっているから」という理由で安値に放置している「信越化学のような複合企業」を好みます。

「AIの恩恵は受けたい。でも、AIがコケた時に死にたくはない」 そんな虫のいい願いを叶えてくれるのは、華やかな専業メーカーではなく、地味で複雑なコングロマリット企業なのです。

「餃子や塩ビが混ざってるくらいが、栄養バランスが良くて丁度いい」 そう思えるかどうかが、割安株投資家とモメンタム投資家の分水嶺なのかもしれません。