PER18倍の信越と、40倍のレーザーテック。市場が「混ぜ物」を嫌う理由と、私がそこに見出す妥協点。
AI相場の波に乗ろうと半導体関連の日本株をリサーチしていた時、数字の「歪み」に酔いそうになりました。
レーザーテック、PER 40倍。 アドバンテスト、PER 50倍超。
「期待値が高い」といえば聞こえはいいですが、バリュー投資を志向する身としては、この高所恐怖症になるような価格帯には到底手が出せません。
しかし、ふと視線を横に向けると、世界シェアNo.1の巨人が、妙に常識的な価格で放置されていることに気づきます。 信越化学工業、PER 18倍。
同じ「世界シェア1位」の半導体関連銘柄でありながら、なぜこれほど評価に断絶が生まれるのか? この差を突き詰めていくと、株式市場という場所がいかに「純度」に対して潔癖か、という事実が見えてきました。
今日はこの「事業の純度」という物差しと、それを踏まえた私の生存戦略について整理します。
1. なぜ「混ぜ物」があるほど安くなるのか
まず、半導体セクターのPERのばらつきを並べてみます。(※数値は執筆時点の概算)
- レーザーテック(約40倍): 半導体検査装置(専業)
- アドバンテスト(約51倍): 半導体テスタ(専業)
- 信越化学(約18倍): 半導体シリコンウエハ + 塩ビ(住宅・インフラ)
- 味の素(約30倍): 半導体絶縁材 + 食品(餃子・調味料)
一目瞭然ですね。 PERが高い企業は、事業の100%が半導体一本足です。いわゆる「ピュア・プレイヤー」です。 対して、PERが低い(割安な)企業には、必ずと言っていいほど「半導体とは関係ない別の事業(混ぜ物)」が含まれています。
信越化学なら「塩ビ(住宅)」、味の素なら「食品」。 投資家心理としては、こういうことです。
「俺はAIの未来にフルベットしたいんだ。住宅市場のリスクや、餃子の売れ行きなんてノイズはいらない」
プロのファンドマネージャーになればなるほど、この傾向は顕著でしょう。「AIファンド」を運用しているのに、組み入れた信越化学が「米国の住宅不況で減益しました」では、顧客に説明がつかないからです。
この「使い勝手の悪さ」が、株価におけるディスカウント(割引)要因となります。金融用語で言う「コングロマリット・ディスカウント」の正体です。
2. 他業界でも起きる「純度」の格差
この「純粋なものは高く、混ざったものは安い」というルールは、半導体に限った話ではありません。
- テスラ(かつてのPER 100倍超): EV純度100%。EVの未来そのものを買うチケット。
- トヨタ(PER 10倍前後): 世界一売っているが、ガソリンもHVも金融もやっている。「EVだけ」を切り出せない。
- カプコン(高PER): ゲーム専業。ヒットすれば株価は青天井。
- ソニーG(中PER): ゲームは覇権だが、映画も音楽も、あろうことか金融(銀行・保険)まで抱えている。分析が複雑すぎる。
市場は、複雑さを嫌い、シンプルさを愛します。 「これさえ買っておけば、そのテーマの恩恵を100%享受できる」という分かりやすさにこそ、プレミアム(高PER)が支払われるわけです。
3. あえて「不純物」を愛する戦略
では、私たち個人投資家はどう動くべきか? 「PERが高いピュアな企業を買うのが正解」なのでしょうか。
私は逆だと思っています。 むしろ、市場が嫌う「混ぜ物(不純物)」こそが、長期投資における安全装置になると考えるからです。
PER40倍のレーザーテックは、半導体市況が悪化すれば逃げ場がありません。「純度100%」とは、リスクも100%直撃することを意味します。
一方で、PER18倍の信越化学はどうか。 もし半導体バブルが弾けても、彼らには「インフラとしての塩ビ」があります。味の素には、不況でも売れる「食品」があります。
- 高PER(専業): 攻めの投資。テーマの恩恵を最大化するが、脆い。
- 低PER(複合): 守りの投資。爆発力はないが、事業ポートフォリオ内でリスクを相殺できる。
私はビビりな性格なので、特定の未来(AI一強など)に資産の全てを賭ける勇気はありません。 だからこそ、市場が「不純物が混ざっているから」という理由で安値に放置している「信越化学のような複合企業」を好みます。
「AIの恩恵は受けたい。でも、AIがコケた時に死にたくはない」 そんな虫のいい願いを叶えてくれるのは、華やかな専業メーカーではなく、地味で複雑なコングロマリット企業なのです。
「餃子や塩ビが混ざってるくらいが、栄養バランスが良くて丁度いい」 そう思えるかどうかが、割安株投資家とモメンタム投資家の分水嶺なのかもしれません。