世界シェア40%。村田製作所の「ブラックボックス」を覗いたら、背後に巨人の影が見えた話。
世間がNVIDIAの株価に一喜一憂している狂騒を横目に、私はあえてステージの床下を支える日本企業、村田製作所(6981)について調べていました。
「電子部品」 この響きには、どこかコモディティ(買いたたかれる汎用品)の匂いがします。 中韓メーカーの安値攻勢に晒され、スマホ不況で沈む未来しか待っていないのではないか?
そんな偏見を持ってリサーチを始めましたが、技術の裏側と、ライバルである韓国サムスン電機の一次情報を掘り下げていくうちに、認識は覆されました。 そこにあったのは、想像以上に深い「堀」と、それすら埋めようとする恐ろしい「敵」の存在でした。
1. そもそも何を支配しているのか?
村田製作所の正体。それは極論すれば「MLCC(積層セラミックコンデンサ)屋」です。 売上の4割、利益の大半をこの小さなチップで稼ぎ出しています。
驚くべきはそのシェアです。 世界シェア 約40%。
ハードウェアの世界において、単独で4割を握るというのは異常事態です。 2位のサムスン電機(約24%)を引き離し、特に利益率の高い「車載・ハイエンド向け」に限れば、TDKと合わせた日本勢で8割以上を独占しているとも言われます。 この「数の暴力」こそが、彼らの収益の源泉です。
2. なぜ他社は真似できないのか?(エンジニアが嫉妬する技術)
今回、最も腹落ちしたのがここです。 「たかが部品だろ? 設備投資すれば中国メーカーでも作れるのでは?」 私はそう思っていました。しかし、それは間違いでした。
村田製作所の正体は、組み立て屋ではありません。「化学メーカー」です。
多くの部品メーカーは、材料(セラミックの粉)を仕入れて成形します。しかし、村田は「材料の粉」から自社で作っていました。 MLCCの性能は、「粉をいかに均一に、薄く延ばせるか」で決まります。彼らは自社配合の「粉」に合わせて、それを加工する「製造装置」まで内製化しています。
「素材から装置まで、全部俺たちが作る」 この完全なる垂直統合により、製造プロセスはブラックボックス化されています。これでは、汎用の製造装置を買ってきて並べるだけのメーカーが勝てるわけがありません。
3. 「スマホの次」はあるのか?
「でも、スマホはもう売れないでしょ?」 その通りです。しかし、村田の主戦場はすでに「数(スマホ)」から「質(AI・EV)」へシフトしています。
① AIサーバー(熱との戦い) NVIDIAのGPUを積んだサーバーは、凄まじい熱を発します。普通のコンデンサなら溶けるか機能停止する環境です。ここでは「高耐熱・高電圧」の特殊品が必須となり、単価は何倍にも跳ね上がります。
② EV(1台に1万個の世界) ガソリン車が1台3,000個なのに対し、ハイエンドEVは1台で1万個以上のMLCCを飲み込みます。 しかも、ここは人命に関わる聖域です。「安いから」という理由で品質の怪しい中国製を使うメーカーはいません。
スマホの台数は減っても、一台あたりの「村田依存度」は劇的に上がっている。これが実態です。
4. 唯一にして最大のリスク:サムスンの「宣戦布告」
ここまでなら「村田製作所、買い一択」で終わる話です。 しかし、私はある資料を見てしまい、マウスをクリックする手を止めました。
最大のライバル、サムスン電機(Samsung Electro-Mechanics)の決算説明資料(Earnings Release)です。
噂レベルではなく、彼らが投資家向けに公開している一次情報に、明確な「攻撃宣言」が記されていました。
“Expand supply of high-end products for industrial/automotive applications including AI servers.” (AIサーバーを含む産業用・車載用へのハイエンド製品供給を拡大する)
背筋が冷えました。 これまで村田が独占していた「AI・車載」という聖域に対し、サムスンが真正面から「獲りに行く」と宣言しているのです。
彼らには、グループ内にメモリやロジック半導体を持つ強みがあります。「半導体とコンデンサをセットで供給する」というパッケージ提案をされたら? 技術力で勝っていても、商流で負けるシナリオは十分にあり得ます。
結論:最強の職人と、背後のスナイパー
リサーチを終えた私の結論はこうです。
「村田製作所は、世界最強の職人である。だが、背後にはサムスンというスナイパーが銃口を向けている」
AI・EV時代の主役になれるポテンシャルは十分です。今の株価水準も魅力的です。 しかし、私はまだフルベットできません。
サムスンの「宣戦布告」が、単なるハッタリなのか、それとも村田の利益率を削り取る現実の脅威となるのか。 投資判断を下すのは、次の四半期決算で彼らの「営業利益率」を確認してからでも遅くはない。そう判断しました。
疑い深いと言われるかもしれませんが、それが私の生き残り戦略なのです。