【エンジニアの怨念】AIバブルで「中抜き構造」は崩壊するか? 虐げられた物理層(レイヤー1)が描く、一発逆転の「妄想」と「検証」。
今年も残すところあとわずかとなりました。今年の市場はなんといってもAIの躍進でしたね。世間では「AI革命だ!」「生成AIですべてが変わる!」と、きらびやかな未来が語られています。
しかし、現場のエンジニアである私たちの心は、どこか冷めています。 なぜなら、私たちは知っているからです。 どんなに素晴らしい「革命」が起きても、日本のIT業界にはびこる「多重下請け構造」がある限り、一番下で汗をかく人間が報われることは少ない、という残酷な現実を。
今回は、この「エンジニアのルサンチマン(怨念)」をベースにした、少し危険で、でも実現したら最高に痛快な「仮説」にお付き合いください。
閲覧注意:この記事は「投資オタク」向けです。 ここから先は、IT業界の「多重下請け構造」を、投資の物差しとして解析しています。手っ取り早く儲かる株の紹介はありません。 筆者の個人的な「願望」が含まれている可能性があるため、エンターテインメントとして楽しめる方のみ、お進みください。「OSM参考モデル」に関わる技術的な説明もしません。
1. 僕たちの絶望:OSI参照モデルという名の「カースト制度」
私たちエンジニアの共通言語に「OSI参照モデル」があります。
教科書的には「通信機能を7階層に分けたもの」ですが、実社会において、これはそのまま「利益と権力のヒエラルキー」を表しています。

投資家やユーザーがGoogleやMicrosoftを買う理由はシンプルです。 彼らが「OSI参照モデルのレイヤー7(アプリケーション層)」を握っており、ユーザーとのインターフェース(課金ポイント)を独占しているからです。
「チャットGPTすごい!」→「課金する」→「OpenAIが儲かる」→「Microsoftの株価が上がる」。
この流れは非常に分かりやすい。
▼ レイヤー7(アプリ層)
- 住人: GAFAM、大手SIer(元請け)、コンサル。
- 生態: 涼しいオフィスで「仕様」を決め、「予算」を握る。
- 特権: 「中抜き」。 彼らはユーザー(財布)を直接握っています。右から左へ仕事を流すだけで、利益の大半を吸い上げます。「あとはよろしく」の一言で、面倒な実装はすべて下へ落ちていきます。
▼ レイヤー1〜2(物理・データリンク層)
- 住人: 通信キャリア、データセンター運用、インフラ施工、サーバ監視。
- 生態: 轟音が響くサーバールームで、寒さに震えながらケーブルを這わせる。アラート対応で夜中に叩き起こされる。
- 扱い: 「コスト」。 どれだけ高品質な回線を提供しても、レイヤー7からは「もっと安くしろ」「まだできないのか」と買い叩かれる。これが、私たちが現場で見てきた「いつもの景色(通常運転)」です。
過去20年間、投資の正解はずっと「レイヤー7」でした。 泥臭い物理層を踏み台にして、GAFAMという王様だけが肥え太る。私たちはそれを、指をくわえて見ているしかありませんでした。
2. 歴史的転換点:王様が「土下座」する日
しかし、生成AIという怪物が、この残酷なピラミッドに「物理(フィジカル)のバグ」をもたらした可能性を考えていみたいです。すでにNVIDIAはこのレイヤに食い込んでいます。
これまでのWebサービスは、コピー&ペーストで無限に増やせました。 しかし、AIを動かすための「GPU」、それを冷やす「電力」、データを運ぶ「光ファイバー」は、物理的な実体であり、コピーできません。
ここで初めて、立場が逆転する「可能性」が出てきました。
- レイヤー7(GAFAM): 「金ならいくらでも出す! 今すぐデータセンターを拡張してくれ! AIの覇権を握るんだ!」
- レイヤー1(現場): 「すみません。変電所の建設には5年かかります。物理的に無理です」
今まで「代わりはいくらでもいる」と買い叩かれてきた下請け(物理層)が、「代わりがいない存在(ボトルネック)」になった瞬間です。
3. 妄想か、正機か。「搾取された分」が戻ってくるというシナリオ
ここからは、私の少し危険な「妄想」です。
これまでの「中抜き構造」が、この物理的な需給逼迫によって崩れるとしたら? これまでギリギリまで叩かれていたインフラ企業の利益率が、供給不足を盾に改善し、搾取されていたマージンを取り戻すとしたら?
これは、当事者として虐げられてきた「こうなってほしい」という願望(アイデオロギー)が強く入っています。 投資において、感情やイデオロギーで判断するのは危険です。 「下請けは永遠に下請けのままである」と考える方が、歴史的には正しいかもしれません。
しかし、もしこの「エンジニアの怨念」が晴らされるような構造変化が、株式市場で起こったら……? それは、単なる金儲け以上に、私たち(大多数のITエンジニア)にとって「最高に楽しいエンターテインメント」になるはずです。
「ざまぁみろ、これからは俺たちのターンだ」 そんな風に現場が息を吹き返す未来に、少しだけ夢を見てみたくなるのです。
4. 冷静な視点:それでも「財布」は彼らが握っている
とはいえ、冷静なデバッグ(分析)も忘れてはいけません。 完全に立場が逆転し、通信会社がGoogleより儲かるようになるか? 答えはNoです。
ビジネスの根本である「エンドユーザーへの課金(財布の紐)」は、依然としてレイヤー7が握っています。 物理層が得られるパイ(総額)は、あくまでレイヤー7が稼いだ収益の中に閉じます。
ですので、過度な期待は禁物です。 あくまで「不当に安すぎた評価」が「適正」に戻る、あるいは「パワーバランスが少しマシになる」程度の変化かもしれません。
5. 年末最後の検討課題:このストーリーは「真実」になるか?
この「物理層の逆襲」というシナリオが正しいかどうか、現時点ではまだ分かりません。 単なる一時的な需給の歪みで終わるのか、それとも構造的な地殻変動につながるのか。
しかし、だからこそ面白い。
- 「多重下請け構造」の悲哀を知るエンジニアだからこそ描ける、逆転のシナリオ。
- 今はまだ「妄想」かもしれないが、追う価値のある仮説。
来年は、この「怨念が晴らされるかどうか」を答え合わせするつもりで、地味なインフラ株の決算書(利益率の変化)をウォッチしていきたいと思います。
これを、私の「年内最後の検討課題」とします。それでは、良いお年を。(そして良い物理層への観察を!)