【書評】ニック・マジューリが定義した「富の6段階」。その先にある“本当の豊かさ”と、最後に記された「重すぎる言葉」。

【書評】ニック・マジューリが定義した「富の6段階」。その先にある“本当の豊かさ”と、最後に記された「重すぎる言葉」。

『JUST KEEP BUYING』で、私たちに「とにかく買い続けろ」という最強のアルゴリズムを授けてくれたニック・マジューリ氏。 彼がまた、良書を世に出してくれました。

私にとって、彼は単なるベストセラー作家ではありません。 本業(データサイエンティスト)を持ちながら、個人投資家のために有益な情報を発信し続ける。 私自身も本業の傍らブログを書き、資産形成(フルスタックな人生)を目指している身として、彼は「背中を追いかけるべき、偉大なブロガーの先輩」でもあります。

今回の新作は、彼自身の生い立ちから資産状況までをフルオープンにした上で、お金の「フェーズ」と「目的」を徹底的にデバッグした一冊でした。 特に、「富のレベル定義」における発明と、その後の「富裕層の悩み(バグ)」から展開される議論は、私の心に深く残りました。

今回は、エンジニア投資家の視点で、特に刺さったポイントをログに残します。

「富の6段階」:対数スケールの心地よさ

まず、本書の構造的な特徴として、資産状況を曖昧な「金持ち」という言葉で片付けず、明確な「6つのレベル」にクラス分けして定義している点が挙げられます。

このレベル分けの「目盛りの付け方」が秀逸なのです。 日本円に換算すると、おおよそ以下のようになります。

  1. レベル1: 150万円未満
  2. レベル2: 150万円 〜 1,500万円未満
  3. レベル3: 1,500万円 〜 1億5,000万円未満
  4. レベル4: 1億5,000万円 〜 15億円未満
  5. レベル5: 15億円 〜 150億円未満
  6. レベル6: 150億円以上

見ての通り、「150」という数字に「0」を1つずつ足していく(桁を増やしていく)という定義になっています。

私たちはつい、「次は+500万円」「+1,000万円」といった「キリのいい足し算(線形思考)」で目標を刻みがちです。 しかし、資産形成の本質は「複利」です。資産は直線ではなく、指数関数(Exponential)的に伸びていくものです。

だからこそ、評価軸も線形ではなく、「桁が変わる(対数スケール)」で設定するのが、感覚的にも数理的にも最も妥当なのです。 この「資産の伸び方に合わせた目盛りの再発明」はいかにもデータサイエンティストらしく、エンジニアとしては「なるほど、その切り方があったか!」と新しさを感じるポイントでした。

前半では、それぞれのレベルで「何をすべきか」が分析されており、自分の現在地を確認するのに最適です。

しかし、私が本当に読み応えを感じたのは、この定義が終わった「後半」のパートでした。 レベル4、5、6へと進んだ「成功者たち」こそが抱える、意外なバグ(苦悩)から、本当の議論が始まるのです。

お金持ちのバグ:「管理コスト」と「孤独」

ハウスキーパーやシェフを雇う生活のエピソードは象徴的です。 レベルが上がり、お金で解決できることが増えると、幸せになれると思いきや、新たなバグが発生します。

  • 他人が家にいるストレス
  • 複雑化する管理コスト
  • 「お金目当て」で寄ってくる人間関係

「お金は万能ツールではない。使いどころを間違えると、かえってQOL(生活の質)を下げる」 この実体験に基づくレポートは、これから資産形成をする私たちにとって、非常に貴重なデータです。

では、バグだらけの「富」を、どう使えば正しく幸せになれるのか? そこで提示されたのが、次の「社会的な富」という概念でした。

人生を変える「4つの富」:人間関係をドル換算してみる

エンジニアとして最も膝を打ったのが、ここです。 彼は膨大なデータを基に、人間関係が持つ価値を具体的な「金額」に換算した研究の引用を見せてくれました。

  • ほぼ毎日、友人に会えること: これだけで幸福度は「年収が10万ドル(約1,500万円)増える」のと同等のインパクトがある。
  • 良い結婚をすること: これも同じく、「年収10万ドルアップ」と同じ価値がある。
  • 仲の良い隣人と定期的に会うこと: これには「年収約6万ドル」相当の価値がある。

これ、すごくないですか? 必死に残業して年収を上げるよりも、定時で帰って友人とビールを飲むほうが、幸福度の総量は遥かに高いかもしれない。 この「友情のROI(投資対効果)は年収1,500万級である」というデータは、生き方の優先順位を根底から覆すパワーを持っています。

本当の豊かさとは「嫌いな人と過ごさないこと」

そして、「なぜ幸せはお金で買えるのか?」という問いに対する彼の答え。 高級車でも豪邸でもなく、答えはシンプルでした。

「お金があれば、嫌いな人と時間を過ごさなくて済むから」

  • 理不尽な上司に頭を下げなくていい。
  • 気が合わない人と、無理に付き合わなくていい。

お金がもたらす最大の機能は、「嫌なことに『NO』と言える拒否権」です。 これこそが、幸福度を最大化する唯一の道。私たちが資産形成をする真の目的は、この「自由」の実装にあるのだと再確認できました。

最後に刺さった、ブロガーとしての「重い言葉」

そして、本書(記事)の最後。 彼が自身の活動の目的を語った一言が、同じ発信者として私の胸に深く、重く刺さりました。

「私の使命は、お金という『複雑な問題』に対し、できる限り『シンプルな戦略と解決策』を示すことだ」

一見、当たり前のことに聞こえるかもしれません。 しかし、金融の世界は本来、税制、金利、心理バイアス、マクロ経済などが絡み合う、極めて「複雑怪奇なシステム」です。

それを、誰もが実行できるレベルまで削ぎ落とし、「Just Keep Buying」のような「シンプルなコード」に変換して出力する。 これがどれほど難しく、どれほど知性と労力を要することか。

エンジニアなら分かるはずです。「シンプルに見せる」ことこそが、最も難しいのです。

彼は、膨大なデータ分析と試行錯誤の末に、その泥臭い過程を隠して、私たちに「結論」だけをプレゼントしてくれている。 この言葉の裏にある彼の覚悟と誠実さを感じた時、私は改めて「この人には敵わないな」と思うと同時に、「自分もこういう記事を書いていきたい」と強く思いました。

良き先輩の背中を追って

ニック・マジューリは、データサイエンティストであり、優れた投資家であり、そして何より「最高の教育者」です。

彼が示した「シンプルな解」を、私のポートフォリオにも、そして人生にも実装していく。 そして私自身も、読んでくれる誰かにとっての「複雑な問題をシンプルにする手助け」ができるようなブログを書いていきたい。

投資のモチベーションだけでなく、ブロガーとしての視座までも引き上げてくれる、私にとって大切な一冊となりました。

ニックの哲学を「実装」するための2冊

今回紹介した彼の思考の原点となる書籍と、最新の戦略書を紹介します。 「複雑なことをシンプルに」という彼の教えを、まずはここから始めてみてはいかがでしょうか。

1. 思考のOSをアップデートする「戦略書」

『THE WEALTH LADDER 富の階段 ── 資産レベルが上がり続けるシンプルな戦略』

今回紹介した「富の6段階」や「社会的な富」について、圧倒的なデータ量で解説された最新刊です。 自分が今どのレベルにいて、次のレベルに行くには「何をすべきで、何をすべきでないか(バグ回避)」が明確に定義されています。 ただお金を増やすだけでなく、人生の幸福度を最大化するための「攻略本」として、手元に置いておきたい一冊です。


2. 「買い続ける」を自動化する「戦術書」

『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』

前作にあたるこちらは、より実践的な「投資のアルゴリズム(行動指針)」に特化した本です。 「暴落時はどうする?」「一括投資か積立か?」といった、投資家が抱えるあらゆる迷いをデータで断ち切ってくれます。 『富の階段』で戦略を描き、この本で戦術を実行する。この2冊があれば、資産形成における迷いはほぼゼロになるはずです。

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