【書評・反省】『バフェットからの手紙 第8版』を読んで。バークシャーを手放した私の後悔と、95歳の巨人が教えてくれたこと。

【書評・反省】『バフェットからの手紙 第8版』を読んで。バークシャーを手放した私の後悔と、95歳の巨人が教えてくれたこと。

投資家のバイブル、『バフェットからの手紙』の第8版を読みました。

実は、この本(第7版以前)は私にとっての「古典」であり、コロナ前にも何度も繰り返し読んでいました。 今回の手紙では、すでに「パンデミック(伝染病)」のリスクや、それが経済に与える影響についての解説が追記されているように思います。「インフレ」にかかわる分析も深くなった様子。

しかし、あれから数年。 実際にコロナ禍という世界的混乱を経験し、私自身が「バリュー投資」に本腰を入れて市場の荒波に揉まれるようになってから、改めてこの本を開くと……印象がまるで違いました。

かつては知識として読んでいたバフェットの言葉の一つひとつが、今の私には自分の甘さや迷いを指摘する鋭い刃となって、グサグサと心に刺さるのです。

2025年現在、バフェットは95歳。 本書は、単なる「株の選び方」の本ではありません。 かつて斜陽産業だった小さな紡績工場を、世界最強のコングロマリットへと変貌させた、50年以上にわたる「経営と信頼の記録」です。

今回は、本書から改めて学んだこと、そしてかつてバークシャー株を手放してしまった私の「痛恨のミス(機会損失)」について、自戒を込めて綴ります。

1. アクティビストとは真逆の「信頼」システム

今回、特に深く刺さったのは、彼の「買収した企業への接し方」です。

最近話題の「アクティビスト(物言う株主)」は、経営陣に圧力をかけ、現金を吐き出させ、短期間で利益を得ようとします。 しかし、バフェットのやり方は対極にあります。

  • 経営には口を出さない: 買収後も、元の経営者(CEO)にそのまま経営を任せる。
  • 絶大な信頼: 「君の好きなようにやってくれ。結果だけ報告してくれればいい」。

彼は、シーズキャンディーズやガイコといった巨大企業のCEOたちに、「めちゃくちゃな信頼(Trust)」を寄せています。 本社(バークシャー)には最小限の人員しか置かず、権限を完全に委譲(Decentralize)する。

「金は出すが、口は出さない。その代わり、君たちの人生をかけて育てた会社を永遠に守る」

この「信頼のアーキテクチャ」こそが、世界中の優秀な経営者が「バフェットになら会社を売りたい」と集まってくる理由であり、バークシャー・ハサウェイという組織の強さの源泉なのだと痛感しました。

2. 【懺悔】バークシャーを手放した私の「バグ」

本書を読み進める中で、最も胸が痛んだ瞬間がありました。 それは、「素晴らしいビジネスは、永久に保有し続けるべきだ」という教えに触れた時です。

実は私、コロナショック後の安値圏で、バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)の株主だった時期があります。 しかし、少し利益が出たタイミングで、「他にもっと動きのいい株があるから」と浮気心を出し、早々に売却(利確)してしまったのです。

今、バークシャーの株価チャートを見ると、めまいがします。 あのまま持っていれば、資産はどれほど増えていただろうか。

「複利のエンジンを、自ら停止ボタンを押して止めてしまった」

これぞ、個人投資家が最も陥りやすいバグ(ミス)です。 後悔しても株価は戻りませんが、この失敗を教訓にして、来年の新NISA(成長投資枠)あたりで、また少しずつポートフォリオに組み込んでいこうかな……と、ぼんやり考えています。

3. 巨人の足跡と、ちっぽけな自分

読み終えて、ふと本を閉じた時に湧き上がってきたのは、投資の知識ではなく、ある種の「圧倒的な敗北感」と「憧れ」でした。

斜陽産業だった紡績工場を、50年かけて世界最大級の投資会社に育て上げた。 その偉業(ログ)を目の当たりにすると、目先の株価変動で「売った買った」と騒いでいる自分の存在が、あまりにもちっぽけに見えてきます。

正直なところ、「もっとバフェットが現役バリバリで、脂が乗っていた時代に、リアルタイムで彼の投資を見ていたかった」と思います。 もちろん95歳の今もお元気ですが、伝説が現在進行形で紡がれていた時代に、投資家として同じ空気を吸えていたら、どれほど刺激的だっただろうか、と。

彼が成し遂げたことの大きさに対し、私たちができることは限られています。 しかし、この本に残された「知恵」をインストールすることはできます。

迷った時、自分の投資が小さくまとまりそうになった時、この本を開いて、巨人の視点にチューニングし直す。 それこそが、私たち個人投資家が長く市場で生き残るための、一番の特効薬なのかもしれません。


今回ご紹介した書籍

今回書評を書いたのは、第8版です。 古い版(第7版以前)をお持ちの方も多いと思いますが、第8版では「コロナパンデミック」「歴史的なインフレ」「近年の自社株買い」に関するバフェットの思考プロセスが大幅に加筆(アップデート)されています。市場のノイズに迷った時、自分の投資判断をデバッグするための「辞書」として、手元に置いておきたい一冊です。

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