【業界分析】ドラッグストア5社+スーパーの決算書を「3つの変数」でデバッグする。マツキヨ(3088)とコスモス薬品(3349)はどちらが優秀か?
ポートフォリオの一角を占める コスモス薬品(3349) が、ここ最近、力強い上昇を見せています。ホルダーとしては非常にありがたい限りです。
ただ、株価の動きと、企業のビジネス構造はまた別の話です。
市場の評価が変わろうが変わるまいが、彼らがどのようなロジックで利益を生み出しているのか、その「ソースコード」を理解しておくことはバリュー投資を続けるうえで大切に思います。
そこで今回は、コスモス薬品だけでなく、マツキヨココカラ(3088) や ウエルシアHD(3141) といった競合他社、さらには 食品スーパー まで含めた業界全体の構造について、決算書の数字からデバッグ(分析)し直してみました。
すると、同じ「小売業」に見えても、各社が全く異なる変数をチューニングして戦っていることが数値レベルで見えてきました。
比較のための「3つの変数」定義(ソースコード)
ビジネスモデルを理解するには、漫然と数字を見るのではなく、以下の3つの指標を計算する必要があります。多くの数字を見るのは大変なので小売のヨコヨコ比較に使ってる3つに絞ってます。これらは決算書(PL/BS)からデータを取得し、簡単なスクリプト(計算式)を組むだけで算出できます。
① 粗利益率(売上総利益率)
商売そのものの「付加価値」です。
Python
# 粗利益率の計算式
# 「売上高」から「売上原価」を引いたものが「売上総利益(粗利)」
粗利益率 = (売上高 - 売上原価) / 売上高
# 意味:
# 高い -> 高付加価値モデル(化粧品、調剤など)
# 低い -> 薄利多売モデル(食品、ディスカウントなど)
② 営業利益率
最終的なビジネスの「効率」です。
Python
# 営業利益率の計算式
# 「営業利益」は本業の儲け(粗利から販管費を引いたもの)
営業利益率 = 営業利益 / 売上高
# 意味:
# 高い -> コスト管理が優秀、または高粗利で余裕がある
# 低い -> コストが重い、または戦略的に利益を削っている
③ 在庫回転率(棚卸資産回転率)
ここが最重要です。商品が売れる「スピード」です。
決算書に直接「回転率」は書いていないため、貸借対照表(B/S)から「平均在庫金額」を算出して計算します。
Python
# 在庫回転率の計算式
# 分子には「売上高」ではなく「売上原価」を使うのが一般的(より正確なため)
# Step 1: 平均在庫金額を計算
# 貸借対照表の「商品」または「棚卸資産」の数字を使います。
# 「前期(1年前)」と「当期(今回)」の平均をとることで、季節変動などのノイズを均します。
平均在庫金額 = (前期の_商品在庫 + 当期の_商品在庫) / 2
# Step 2: 回転率を計算
# 損益計算書の「売上原価」を、平均在庫で割ります。
在庫回転率 = 売上原価 / 平均在庫金額
# 意味:
# 高い(12回以上)-> スーパー並みの速度。現金化が早い。
# 低い(6回以下) -> 在庫リスクが低いが、現金化は遅い。
ドラッグストア5社 スペック比較テーブル
上記の計算式を使って、直近の決算トレンドを基に算出した各社のスペック表です。

| 企業名 | ① 粗利益率(付加価値) | ② 在庫回転率(スピード) | ③ 営業利益率(最終効率) |
| マツキヨココカラ(3088) | 約 34% (高) | 約 6回/年 (低) | 約 7.5% (高) |
| スギHD(7649) | 約 30% (中高) | 約 7回/年 (中) | 約 4.5% (中) |
| ウエルシアHD(3141) | 約 30% (中高) | 約 7回/年 (中) | 約 2.8% (低) |
| サンドラッグ(9989) | 約 28% (中) | 約 8回/年 (中高) | 約 6.0% (高) |
| コスモス薬品(3349) | 約 19% (低) | 約 12回/年 (超高速) | 約 3.5% (低) |
コスモス薬品(3349) vs スーパーマーケット
上記の表で、コスモス薬品(3349) の「回転率 12回」はドラッグストア界では異常値です。
これだけでもいいのですが、より解像度を上げるため、回転率勝負の本職の「食品スーパー」と比較するとどうなのでしょうか?
関東の最強スーパー ヤオコー(8279) と、高効率経営で知られる 神戸物産(3038) を比較対象(ベンチマーク)に追加してみます。
| 企業名 | 在庫回転率(スピード) | 特徴 |
| ヤオコー(8279) (食品スーパー) | 約 18〜20回/年 | 【生鮮のプロ】 肉・魚・惣菜がメインのため、数日で売り切る必要がある。回転は爆速。 |
| コスモス薬品(3349) | 約 12回/年 | 【加工食品のプロ】 生鮮はやらない。賞味期限の長い食品メインのため、スーパーよりは遅い。 |
| 神戸物産(3038) (業務スーパー) | 約 10〜12回/年 | 【冷凍・保存食のプロ】 冷凍食品や輸入品がメイン。構造はコスモスに非常に近い。 |
| マツキヨココカラ(3088) | 約 6回/年 | 【化粧品・薬】 使用期限が長いため、在庫リスクは低いが回転は遅い。 |
ドラッグストアとスーパーの「隙間」
この比較から、各社のポジショニングが明確になります。何もやらない状態の解像度からみると段違いです。初めてお家に地デジが来たかのようです。
- ヤオコー(8279): 生鮮食品という「足の速い」商品を扱うため、廃棄ロス(Loss)のリスクが高いが、来店頻度は最強。
- マツキヨココカラ(3088): 薬や化粧品という「腐らない」商品を扱うため、在庫リスクは低いが、来店頻度は低い。
- コスモス薬品(3349): その中間。「生鮮食品の廃棄リスク」は負わずに、「ドラッグストアより高い来店頻度」を実現するスイートスポット(加工食品・日配品)を攻略している。
数値でわかる「戦略の分岐点」
改めてドラッグスと業界全体を見渡すと、大きく「2つの方向」へ進化(分岐)していることが分かります。
方向性A:粗利益率を高める「マツキヨ・スギ」ルート
「回転率はそこそこでいいから、1個あたりの粗利(マージン)を厚くする」戦略です。
- マツキヨココカラ(3088) は「化粧品・PB」というブランド力で。
- スギHD(7649) は「調剤」という医療技術で。それぞれの強みを活かして「高くても売れる(選ばれる)」状態を作り出し、利益率を高めています。
方向性B:在庫回転率を高める「コスモス」ルート
「粗利はスカスカでいいから、とにかく商品を回転させて現金を回す」戦略です。
- コスモス薬品(3349) は「食品」を撒き餌にして、地域の生活インフラになることで、薄い利益を回数でカバーしています。
こうして決算書の解像度を上げていくと、一時的なノイズに惑わされなくなります。
「営業利益率が高いマツキヨが偉くて、低いコスモスが劣っている」
そんな短絡的な勝ち負けではなく、それぞれが全く別の山を登っていること、そしてコスモス薬品が「スーパーとドラッグストアのいいとこ取り」をするために、あえて今のスペック(仕様)を選んでいることが理解できるようになります。
私たち投資家が、企業の内部すべての変数を把握することは不可能です。
しかし、こうして同業他社や隣接業界(スーパー)との比較を通じてデバッグしていくと、無機質な数字の向こう側に、企業独自の「一筋のストーリー」が透けて見える瞬間があります。
そのストーリーが、現在の株価ですでに評価されているのか、それともまだ市場が気づいていない「バグ(過小評価)」なのか。
自分なりの仮説とストーリーを持って市場と向き合う。それこそが、私がバリュー投資を長く楽しめている理由なのだと思います。