「EVは本当にエコか?」を深掘りしたら、物理の「高効率」と、税金の「バグ」が同時に見えてきた話。

「EVは本当にエコか?」を深掘りしたら、物理の「高効率」と、税金の「バグ」が同時に見えてきた話。

最近、自動車業界・自動車部品メーカーをリサーチしていて、各社のEV戦略について考えていました。 でも、いろいろ調べているうちに、ふと根本的な疑問に足が止まったんです。

「そもそも、EV(電気自動車)って本当に効率がいいのか?」

世の中は「脱炭素!EVシフト!」と言っていますが、その電気を作っているのは火力発電所だったりします。 結局、ガソリンを車で燃やすか、発電所で重油やガスを燃やすかの違いだけで、「燃やしていることには変わりないじゃん」と。

これ、直感的にはすごく正論に思えます。 しかし、エンジニア視点でスペック(熱効率)やシステム設計を比較してみると、「物理面での圧勝」と「制度面でのバグ」という面白いコントラストが見えてきました。

ハード面:「40%の壁」と「60%の超えられない壁」

結論から言うと、エネルギー効率においてはEVに軍配が上がります。 その根拠は、感覚値ではなく「熱効率の数値」にあります。

トヨタ(7203)の意地でも「40%」が限界

新型「直列4気筒2.5L直噴エンジン」-Dynamic Force Engine-

ガソリンエンジンの世界でトップクラスの性能を誇るのが、トヨタの普通車に使われている「ダイナミックフォースエンジン」です。 これでも熱効率は40%。 しかもこれは「最高の条件下」でのカタログスペックです。実際の街乗りでは、加速したり減速したりと負荷が変動するため、実効効率は20〜30%程度まで落ちると言われています。

小さなエンジンの中で爆発をコントロールするのは難しく、どうしても6割以上のエネルギーを「熱」として捨てているのが現実です。

※どうでもいいですが、こんなのを調べていると理系の男の子たちはワクワクするんですよ。

発電所というプロは「60%」を超える

一方で、JERA(東京電力HD 9501 / 中部電力 9502)などが運用する最新鋭の火力発電所(LNGコンバインドサイクル発電)を見てみましょう。熱効率は60%以上に達しています。彼らはガスタービンを回し、その排熱でお湯を沸かして蒸気タービンも回すという、プロの巨大設備です。「骨までしゃぶりつくされる石油」の気持ちになると、たまったものではありません。

ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント(GTCC)

  • ガソリン車: 各家庭で小さな焚き火をする(効率40%以下)。
  • EV(発電所): 巨大工場で一括焼却する(効率60%以上)。

送電ロス(約5%)を差し引いても、やはり「規模の論理」と「設備性能」で、発電所経由の方がエネルギーの歩留まりが良いのです。

制御面:アナログな「焚き火」と、デジタルな「スイッチ」

さらに、この効率差を広げるのが「こまめな制御」です。

ガソリンエンジンは、一度火をつけたら燃やし続けなければなりません。 信号待ち(アイドリング)でも、エンジンを回し続けるために燃料を消費します。いわば「アナログな焚き火」です。

対してEVのモーターは「デジタルなスイッチです。 信号で止まれば、消費エネルギーは完全にゼロ(OFF)。動き出す瞬間にだけONにする。 この「必要な瞬間だけエネルギーを使う」という制御ができる点が、ガソリン車との決定的な違いです。

極めつけは「回生ブレーキ」。 止まる時にモーターを発電機にして、運動エネルギーを電気に戻して回収する。 「焚き火」は燃えカスしか残りませんが、「スイッチ」はエネルギーをリサイクルできる。この差はシステムとして決定的です。

ソフト面:国の「課金システム」がバグってる

物理的には「EVは理にかなっている」となったんですが、社会システム(税金)の視点で見ると、今度は「これ、バグだらけじゃないか?」という矛盾にぶち当たります。

「ガソリン税」が取れない

ガソリン価格の約半分は税金です。国にとってガソリン車は、走れば走るほどチャリンチャリンとお金が入る「移動する集金マシン」でした。 しかし、EVになるとガソリン税は1円も取れません。道路の維持管理費はどうするんでしょうか?

なのに「補助金」を出している

税金が取れないだけならまだしも、現在はEV購入に数十万円単位の「補助金」までつけています。

EVユーザーは「税収面で完全に赤字の存在」です。 「税金を取り逃がす車を、税金を使って普及させている」わけですから、システム設計としては矛盾の極みです。

今は「ベータ版」の時代

こうして整理すると、今の状況は、 「ハードウェア(技術)の進化に、ソフトウェア(税制)が追いついていない状態」 と言えます。

今は普及フェーズだから大盤振る舞いしていますが、いずれEVが当たり前になれば、 「電気代に走行税を上乗せします」とか「車体価格にガッツリ課税します」といった「改悪アプグレ」が必ず当たるはずです。そうしないと、国のシステムが維持できないからです。

投資家として、あるいはエンジニアとして、 「物理的には超高効率だけど、社会実装としてはバグだらけ」 というこの過渡期をリアルタイムで見ているのは、なんだかんだで面白い時代ですね。

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