【読書録】投資の「正解」はあまりにも皮肉だった。ニック・マジューリ著『JUST KEEP BUYING』が証明した、努力が報われない世界の”パラドックス”。

【読書録】投資の「正解」はあまりにも皮肉だった。ニック・マジューリ著『JUST KEEP BUYING』が証明した、努力が報われない世界の”パラドックス”。

投資本を読み漁っていると、数年に一度、「あ、これでもう議論は終わりだな」と思わせる決定版に出会うことがあります。『JUST KEEP BUYING(ジャスト・キープ・バイイング)』は、間違いなくその一冊です。

データサイエンティストである著者が、膨大な過去データを分析して導き出した結論は、あまりにもシンプルで、論理的で、そして残酷なほどに「退屈」でした。

私のように、企業の分析をしたり、割安株を探したりしている「アクティブ投資家」が読むと、正直なところ「個々まで言われてしまうとインデックスでいい」と膝から崩れ落ちそうになります。 なぜなら、「余計なことを考えず、ただインデックスを買い続ける」ことこそが、数学的に最強の戦略であると証明されてしまうからです。

今回は、本書が示す「残酷な正解」と、そこから見えてくる「インデックス投資のパラドックス(矛盾)」について考察します。

「タイミング」を測るな、「早く」買え。

本書の主張はタイトル通りです。 「ただ、買い続けなさい」

「暴落を待って安値で拾うべきか?」 「高値圏だから少し様子を見るべきか?」

私たちは常に、こうした「タイミング」を測ろうとします。しかし、著者はデータを叩きつけ、こう断言します。 「神様でさえ、ドルコスト平均法(毎月定額積立)には勝てない」

  • 待機資金のリスク: 買うタイミングを待って現金を遊ばせている間の「機会損失」は、暴落で損をするよりも、長期的には資産を減らす原因になる。
  • 判断ミスのリスク: 底値を当てることなど不可能であり、人間の判断が入る余地を残すと、必ずミス(バグ)を生む。

つまり、「給料が入ったら即座に全額投資し、あとは忘れる」ことこそが、資産を最大化する唯一の解なのです。

私たちは「誰」のおかげで儲かるのか?

本書は完璧な論理で構成されていますが、読み終わった後、私の中に一つだけ「シニカル(皮肉)な気づき」が残りました。

「インデックス投資家は、アクティブ投資家の『養分』になっているのではない。逆に、アクティブ投資家の『労働』にタダ乗り(フリーライド)しているのだ」

インデックスファンドは「時価総額加重平均」です。 業績が良い企業の株価は上がり、指数に多く組み入れられます。逆にダメな企業は淘汰されます。

しかし、その大前提となる「その株価は本当に適正なのか?」を決めているのは誰でしょうか? それは、不確実な霧の中で「この企業にはもっと価値があるはずだ」「いや、過大評価だ」と悩み、血眼になって売り買いをぶつけ合っているアクティブ投資家たちです。

彼らがリスクを負って出した「その時点での暫定解(適正株価)」があるからこそ、市場価格は形成されます。 もし彼らがいなくなったら、市場から「価格発見機能」が失われ、良い企業も悪い企業も区別がつかなくなり、インデックス投資自体が成立しなくなります。

「一生懸命勉強したアクティブ投資家たちが平均リターンに負け、何もしていないインデックス投資家がその果実を得る」 この本が証明したのは、資本主義における最も皮肉で、しかし逃れられない「フリーライド」の構造でした。

それでも「個別株」を続ける(存在意義として)

では、この構造を理解した上で、個別株投資を続けるのか? ささやかながら続けます。

なぜなら、インデックス投資は「平均点」を取るための最適解ですが、「平均を超える(アルファを得る)」可能性を最初から放棄する行為だからです。

  • インデックス(本番環境): 資産形成の土台。バグのない安定稼働システム。
  • 個別株(サンドボックス): 自分の仮説を試し、市場と対話するための「知的な遊び場」

「正解は分かっているけれど、あえて自分で考え、失敗したり成功したりするプロセスを楽しみたい」。 そんな「精神的な充足感」や「知的興奮」を得るためのコストとして、サテライト枠(資産の一部)で個別株を続ける。

そう定義することで初めて、私は「インデックスに負けるかもしれないゲーム」に参加する理由を保てるのです。

そういえば、先日、「推し活」と書いたところでしたね。

まとめ:迷いを断ち切る一冊

もしあなたが、「今の投資方針でいいのかな?」「もっと頻繁に売買したほうがいいのかな?」と迷っているなら、この本を読んでみてください。 霧が晴れるように、迷いが消えるはずです。

そして読後には、「明日からも、市場を支えてくれているアクティブ投資家に感謝しつつ、淡々とインデックスを買い続けよう(そして余った小遣いで、こっそり個別株を楽しもう)」という、静かなる規律が身についていることでしょう。

迷った時に立ち返る「羅針盤」として、本棚の最も取り出しやすい場所に置いておきたい一冊です。


【紹介した書籍】

『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』 (ニック・マジューリ・著 / ダイヤモンド社)

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