村田製作所をDCF法で計算して、その「無意味さ」に気づいてしまった話。

村田製作所をDCF法で計算して、その「無意味さ」に気づいてしまった話。

前回の記事では、村田製作所が持つ「技術の堀」について確認しました。 エンジニアとして、彼らの積層セラミックコンデンサ(MLCC)が芸術品に近いことは理解しています。

しかし、投資家としての仕事は「良いものを買うこと」ではなく、「良いものを安く買うこと」です。 そこで今回は、Excelを開いてDCF法(割引現在価値法)という物差しを使い、村田製作所の適正価格を弾き出そうと試みました。

結論から言うと、計算はしました。数字も出ました。 でも、その作業の途中で「俺は台風の進路を定規で測ろうとしているんじゃないか?」という、強烈な虚無感に襲われたのです。

今日はその計算結果と、私が直面した「理屈の限界」についてシェアします。


1. 机上の空論(計算の前提)

まずは、教科書通りに計算してみます。 AIやEVという「希望」と、スマホ市場の飽和やサムスンの猛追という「現実」をミキサーにかけて、以下のような巡航速度を設定しました。

① 売上成長率:年率 +5.0% スマホの台数はもう伸びませんが、AIサーバーやEV向けで単価が上がる(質的成長)と仮定して、まあこれくらいでしょう。

② 営業利益率:18.0% かつてのような「利益率20%超え」を前提にするのは、サムスンがいる以上楽観的すぎます。高付加価値品へシフトして、なんとか18%を死守するシナリオです。

③ 実質キャッシュフロー:利益の50% これが一番痛い。装置産業の宿命として、彼らは競争力を維持するために巨額の設備投資を続けなければなりません。稼いだ金の半分は、次の設備に消えると仮定します。


2. 計算結果:理論株価 2,730円

この前提で、将来5年間のキャッシュフローを積み上げ、割引率(WACC)7.0%で現在価値に割り戻しました。

  • 事業価値:約 4.75兆円
  • ネットキャッシュ:約 0.6兆円
  • 株主価値:約 5.35兆円

これを発行済株式数で割ると…… 理論株価:約 2,730円

現在の株価は3,033円前後(執筆時点)。 つまり、「今の株価は10%ほど割高(期待先行)」という結果が出ました。


3. この計算、意味あるか?

数字だけ見れば、「今は高いから、2,700円まで落ちてくるのを待とう」となります。 これまでの私ならそうしたでしょう。

しかし、計算式のセルを眺めていて、ふと我に返りました。 「半導体業界で、5年先まで年率5%で安定成長する前提なんて、果たして置けるのか?」

DCF法は、コカ・コーラや鉄道会社のような「予測可能な未来」を持つ企業には有効です。 しかし、ここはドッグイヤーのハイテク業界です。

  • もし明日、MLCCを不要にする「シリコンキャパシタ」の革命が起きたら?
  • もしサムスンがシェア奪取のために、利益度外視の価格破壊を仕掛けてきたら?

その瞬間、私の作った精緻なExcelモデルはただの紙屑になります。 変化の激しい戦場において、「安定成長」を前提とした計算機を叩くこと自体が、ある種の傲慢さではないか。そう感じてしまったのです。


4. 結論:安泰な城などない

結局のところ、村田製作所に対する私の評価はこうです。 「モノは最高。でも、安泰な城ではない」

理論株価(2,730円)と現在株価(3,033円)の差額は、市場が抱いている「村田ならなんとかしてくれるだろう」という信仰のプレミアムです。これを払ってでも乗るか、降りるか。

私は一旦、保留にします。 「村田製作所一択」で思考停止するには、このセクターのリスクは高すぎます。

同じリスクを取るなら、電池で覇権を狙うTDKはどうだ? あるいは京セラ? もっと上流の素材メーカーの方が、技術変化の波を被りにくいんじゃないか?

今回の計算で得られた最大の収穫は、「適正株価」という答えではなく、「もっと視野を広げないと火傷するぞ」という警告だったのかもしれません。

比較検討の旅は、もう少し続きそうです。

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