リクルート(6098):「例外」なきシステム。米国不況を無効化するロジックと、Microsoftとの邂逅について。
これまで私はリクルートを、自分の詳細な観測範囲に入れていませんでした。 「人材系の最大手でしょう?」といった程度の認識で、あえて深入りしてこなかった、というのが実情です。
しかし、市場で高いパフォーマンスを上げているいくつかのアクティブファンドのポートフォリオ(組み入れ銘柄)を眺めていた時のことです。あまりにも多くのファンドが、この「リクルート」を主力として採用している事実に気づきました。
「なぜ、プロたちはこぞってこの銘柄を選ぶのか?」 その理由が気になり、この企業のビジネスモデルを解析し、解像度を上げてみることにしました。
すると見えてきたのは、「米国不況という逆風」さえも織り込んで稼ぐ、驚くべきサービスでした。今回は、私がリサーチ中に感じた驚きと発見を共有したいと思います。
1. ノイズか、シグナルか:米国の求人数「激減」の意味
まず、私がリサーチの初期段階で感じた懸念は、「米国景気後退(リセッション)リスク」への脆弱性です。 稼ぎ頭である「Indeed」が米国の労働市場に依存している以上、米国経済が減速すれば、リクルートの業績も深刻なダメージを受けるはずです。
実際、2025年3月期・第2四半期の決算資料という「ログ」を確認すると、懸念は現実のものとなっていました。
- Indeed上の求人件数: 前年同期比 約 8% 減少
これは看過できない数字です。 コロナ後の特需という「ボーナスタイム」が終了し、企業が採用ポートを閉じ始めている証拠です。 通常のビジネスモデルであれば、販売数量が8%も落ちれば、減収減益は免れません。株価にとっては致命的な欠陥となり得るでしょう。
2. 異常値の検出:なぜ「減収」しないのか
しかし、リクルートが発表したトップライン(売上収益)を見て、私は自分の目を疑いました。
- HRテクノロジー事業(米国)の売上収益: ドルベースで 約 5.8% の増収
「求人(数量)が減っているのに、売上(金額)が増えている」。 一見すると矛盾するこの現象。そのロジックを紐解くと、強烈なパラメータ調整が行われていることが判明しました。
- 求人単価: 前年同期比で 約 15% 上昇
リクルートは、求人数の減少分を、掲載単価の引き上げで見事に相殺、いや、それ以上にカバーしていたのです。 「不況下であっても、どうしても人が欲しいのであれば、それ相応の対価を払うべきである」。 この強気なプライシングが市場で承認されてしまう事実。これこそが、リクルートが単なる人材斡旋業者ではなく、市場のルールそのものを支配する「プラットフォーマー」であることの証明です。
日本企業がこの分野で海外で数量減を単価増でねじ伏せる。あまりに美しい、しかし恐ろしいほど冷徹だと感じました。
3. まさか「Microsoft」を調べることになるとは
彼らの「主戦場」は日本ではない
「一体、なぜここまで強気な設定が通るのか?」 その疑問の答えを探すため、私はさらに決算短信を読み、世界の競合他社との比較に入りました。 そこで、さらに大きな認識のズレに直面することになります。
当初、私は日本の人材大手(パーソルやパソナなど)と比較するつもりでした。 私たちは普段、街中で「リクナビ」や「SUUMO」の広告を目にするため、リクルートを「日本のドメスティックな企業」だと思い込みがちです。しかし、直近の売上収益の構成比率を見て愕然としました。
- 日本国内の売上: 全体の約 1/4
- 海外(主に米国)の売上: 全体の約 3/4
これがファクトです。 事業の数や種類こそ日本国内の方が多いものの、稼ぐ金額のスケールにおいて、もはや日本はメインストリームではないのです。 「日本の会社が海外進出している」のではなく、「グローバル企業が、たまたま日本に本社を置いている」と定義し直すべきレベルでしょう。
| 銘柄 | 売上高 | 営業利益率 | ビジネスモデル |
| リクルート (6098) | 約 3.4兆円 | 約 15%前後 | プラットフォーム |
| パーソルHD (2181) | 約 1.3兆円 | 約 4〜5% | 人材派遣 (労働集約) |
| パソナ (2168) | 約 0.4兆円 | 約 4〜5% | 人材派遣 (労働集約) |
この解像度で市場を見渡したとき、比較対象はもはや日本の競合ではありませんでした。 Indeedが戦っている本当の相手は、世界にたった一つ。Microsoftが擁する「LinkedIn」しかなかったのです。
- Indeed (リクルート): 検索エンジン型。全方位を網羅する「求人のGoogle」。
- LinkedIn (Microsoft): SNS型。ホワイトカラーやハイクラス層のデータベースを持つ。
米国の中堅競合であるZipRecruiterが赤字転落して脱落していく中、Microsoftと正面から殴り合い、世界シェアを奪い合う。 まさか日本の銘柄を分析していて、Microsoftとシェア争いの話をするとは思わなかった 。
4. PER30倍でも「調べる価値」はある
これまでの私は「PER20倍以下じゃないと買わない」というバリュー株の基準で見ていました。 しかし、リクルートのような「クオリティが極めて高い企業」には、常にプレミアムがつくのが市場の常識です。
- 圧倒的なネットワーク効果(堀)
- テック企業としての高収益体質
- 不況でも値上げできる価格決定権
これらを加味すれば、PER30倍は「許容範囲」かもしれません。 むしろ、株価が調整している今は、エントリーのタイミングを計る上で絶好のチャンスに見えます。
「高いからパス」と思考停止するのではなく、「このプレミアムを払ってでも、この最強のビジネスモデルを保有する価値があるか?」 そう自問しながら、見ていきたい思います。