バリュー投資家の「あるある」。光通信(9435)とドーン(2303)から考える、市場の“自浄作用”について。

バリュー投資家の「あるある」。光通信(9435)とドーン(2303)から考える、市場の“自浄作用”について。

割安で財務が良く、ビジネスモデルが堅牢な企業を探す。 そうやって「よし、これなら長く持てる」と判断してポートフォリオに組み込むと、後になって大株主のリストに「光通信(9435)」の名前を見つけることがあります。

ポートフォリオの一角、 ドーン(2303) も、まさにそのパターンでした。 時価総額が小さく、普段は静かな銘柄ですが、いつの間にか光通信が買い増しを続けていたのです。

株価が下がっている時に買い支えてくれる存在がいるのは、素直に心強いです。 ただ、彼らがいわゆる「物言う株主」であることを考えると、手放しで喜んでいいものか、少し複雑な気持ちになるのも事実です。

今回は、そんなアクティビストの存在を、エンジニアの視点で少し違った角度から——「市場のエコシステム(生態系)の一部」として考察してみたいと思います。

誰もいない「板」を拾う、静かな存在

実際のデータから彼らの「購買力」を計算してみます。 直近の大量保有報告書(変更報告書)から、ドーン(2303)における光通信の動きを抽出しました。

  • 7月17日時点: 保有比率 5.02%(ここから開示義務発生)
  • 12月1日時点: 保有比率 7.99%

この約5ヶ月間で、保有比率は +2.97% 増加しています。 ドーンの発行済株式数は約330万株ですから、5ヶ月で彼らが買い集めた株数は以下のようになります。

買い増し株数 = 330万株 × 2.97% ≒ 約9万8,000株

「たった10万株弱か」と思うなかれ。この銘柄の「流動性の薄さ」と照らし合わせると、景色が一変します。 同時期(7月〜11月)の市場全体の月間出来高をざっと見てみましょう。

  • 7月:約25万株
  • 8月:約18万株
  • 9月:約9万株
  • 10月:約21万株
  • 11月:約8万株
  • 5ヶ月間の総出来高:約81万株

ここから、衝撃的な事実が浮かび上がります。

市場占有率 = 光通信の買い(9.8万株) ÷ 市場の総出来高(81万株) ≒ 12.1%

なんと、この5ヶ月間、市場で取引された株の「8株に1株」は、光通信が吸い込んでいた計算になります。 しかも、これは「売り」も含めた総出来高に対する比率です。「実需の買い」だけで見れば、その占有率はさらに跳ね上がるでしょう。

推定6.6億円が示す「撤退ライン」

「で、結局いくら突っ込んでるの?」 という疑問に対し、電卓を叩いて金額ベースで規模感を把握してみます。

  • 発行済株式数: 約330万株
  • 光通信の保有比率: 7.99%(12月1日時点)
  • 保有株数: 330万株 × 7.99% ≒ 263,670株

ここで、彼らの平均取得単価を「2,500円」と仮定して、総投資額を算出します。

推定投資額 ≒ 263,670株 × 2,500円 ≒ 約6億6,000万円

この「6.6億円」という数字を見る際、最も重要なのが「資金力の非対称性」が生じていますね。

これは、「同じ6.6億円でも、双方にとっての“重み”が天と地ほど違う」のです。

  1. ドーンにとっての6.6億円: 時価総額(約80億円前後)の約8%に相当します。これは経営権への影響力を行使できるレベルであり、会社側にとっては決して無視できない「巨大な圧力」です。直近の手持ち現金は16億円。
  2. 光通信にとっての6.6億円: 彼らの手元流動性(現金同等物や投資有価証券)は直近で3,528億円規模です。つまり、この投資額は彼らの財布の「0.1%〜0.2%(誤差レベル)」に過ぎません。直近決算短信で、「その他金融資産」の831億円に計上されていると思われる。

これが何を意味するか。

もし仮に株価が暴落して半値になったとしても、光通信にとっては「かすり傷(小銭の損失)」でしかありません。痛くも痒くもないため、損切りして撤退する理由がないのです。 逆に、彼らは「誤差レベルの資金」を追加投入するだけで、保有比率を10%、15%へと容易に引き上げることができます。

「相手はHP(体力)がほぼ無限にあるボスキャラで、こちらは有限」。 この圧倒的な非対称性があるからこそ、市場は「彼らが売るはずがない」「下がるなら彼らが買い増すだけだ」と判断し、2,500円ラインが「岩盤(サポートライン)」として機能する可能性が高まります。

ただし、光通信が損切しても損害が軽微なので、完全な岩盤にはなり得ないのでその点は留意が必要で、疑心暗鬼は続いてしまうのですが。

エンジニア視点で見る「ガベージコレクション」

光通信の買い方を見ていると、非常に合理的で、ある種の手練れ感を感じます。

彼らは、市場が盛り上がっている時にはあまり動かない印象があります。 むしろ、人気が離散し、出来高が細り、個人投資家が「もう動かないから売りたい」としびれを切らした瞬間。 そうしてポロポロと落ちてくる売り物を、誰かが静かに、丁寧に拾い集めている……そんな気配を感じることがあります。

なぜ彼らはこうした企業を狙うのでしょうか? 彼らの行動をエンジニア的に解釈すると、それは市場における「ガベージコレクション(Garbage Collection)」に近い機能に見えてきます。

ガベージコレクションとは、プログラムが使わなくなったメモリ領域を自動的に解放し、再利用可能にする仕組みのことです。

  • 企業の「メモリリーク」: 稼いだ現金を事業投資にも還元にも回さず、ただ内部に溜め込んでいる状態。システムで言えば、リソースが無駄に占有され、処理効率(ROE)が落ちている状態です。
  • 市場の「最適化機能」: そうした「滞留した現金」を検知すると、光通信のようなプロセスが起動します。彼らが経営陣に増配や自社株買いを求めるのは、「使用されていないリソースを解放し、市場全体に還流させる」という最適化処理そのものです。

相場全体が崩れるような局面でも、彼らのような大口が下値を支えてくれているという事実は、精神的な安定剤になります。 また、「プロの機関投資家も、この企業を自分と同じように『割安(メモリリーク状態)』だと評価している」という事実は、自分の投資判断に対する「答え合わせ」のようで、自信にも繋がります。

「応援」という夢と、「利食い」という現実

最も悩み深く、心の整理がつかないポイントです。

私たち個人投資家は、つい「企業を応援する」という綺麗な夢を見てしまいます。 「この会社の技術が好きだ」「社会の役に立ってほしい」と。 一方で、光通信をはじめとするアクティビストたちは極めてドライです。彼らはTOBやMBO(経営陣による買収)といった出口戦略を描き、淡々と「マネタイズ(現金化)」を狙うビジネスモデルで動いています。

情緒的な「応援」と、機械的な「回収」。

本来、この両者は水と油であり、相容れない存在のはずです。

しかし、ふと我に返って「じゃあ、お前はどうなんだ?」と自分に問うてみます。 いくら「応援したい」と口では言っても、結局のところ、株価が上がって「キャピタルゲイン(売却益)」を得たいのではないか? 私の言う「応援」も、リターンがあって初めて成り立つものではないのか?

そう言われると、ぐうの音も出ません。 投資家である以上、利益を追求するのは当たり前の機能(仕様)だからです。

だからこそ、彼らがやっていることを「お金に汚い」と批判したり、冷笑したりする資格は、私にはありません。 「どんどんやってくれ!」と諸手を挙げて賛成する気にはなれませんが、「結局、自分も彼らと同じ『利益』という果実を求めている」という現実を突きつけられると、なんとも言えない複雑な葛藤を感じてしまうのです。

経営陣への負荷と、ささやかな願い

唯一心配なのは、「経営陣への負荷」です。

ドーンのような規模の会社は、経営陣のリソースが限られています。 社長やCFOが、本来やるべき事業成長や開発に使うべき時間を、株主対応だけに奪われてしまっては本末転倒です。

「株主還元は進んだが、肝心の事業成長が止まってしまった」 そんな結末は、誰も望んでいません。

「株価の下支えはしてほしいし、あわよくばMBOのような展開があれば嬉しい。でも、経営の邪魔だけはしないでほしい」。 そんな、いささか虫のいい願いかもしれませんが、彼らがほどよい距離感で「市場の自浄作用」を果たしてくれることを期待しつつ、今日も静かにホールドを続けています。

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