なぜドーン(2303)は、理論株価より30%も安いのか? プロが入れない「小さな水槽」の歩き方。
私のポートフォリオの片隅に、地味ですが妙に愛着のある銘柄がいます。 ドーン(2303)。 警察や消防向けの地図情報システムを手掛ける、いわゆる「Gov-Tech(行政テック)」企業です。
直近の株価は2,000円前後(執筆時点)。 チャートだけ見れば横ばいで退屈そのものですが、実はこの価格、企業の「稼ぐ力」と「保有現金」から逆算すると、異常なバーゲン価格で放置されているのです。
なぜ、利益率30%超えの超優良企業が、こんな値段で売られているのか? そこには、株式市場の構造的なバグである「流動性プレミアム」が存在します。
今回は、私が弾いたそろばん(DCF法)の中身と、なぜこの「歪み」が修正されないのかという市場のカラクリについて解説します。
1. 「割安」の証明(DCF法による理論株価)
「なんとなく安い」は感想ですが、「計算上安い」は事実です。 ドーンは官公庁相手のストックビジネス。解約率が極めて低く、未来の収益が見通しやすいので、DCF法との相性は抜群です。
【計算の前提:あえて保守的に】 夢物語にならないよう、かなり堅実なパラメータを設定しました。
- 売上成長率:年率 +5.0%
- 自治体DXの波を考えれば、無理のない巡航速度です。
- 営業利益率:32.0%
- これがドーンの真骨頂。受託開発ではなく「ライセンス」で稼ぐため、原価率が低い。30%超えの高収益体質は今後も続くと仮定します。
- 割引率(WACC):6.0%
- 顧客が日本国政府(のようなもの)なので、貸し倒れリスクは皆無。実質無借金なので、投資家が求めるリスクプレミアムは低くなります。
【シミュレーション結果】 この前提で、向こう5年間のキャッシュフローを積み上げると、彼らは毎年3〜4億円の現金を確実に積み上げていく計算になります。
- ① 事業価値(稼ぐ力):約 72.7億円
- ② ネットキャッシュ(手持ち現金):約 28.0億円
- ここが重要。時価総額の4割近い現金を、ただ金庫に眠らせています。
- ③ 株主価値(①+②):約 100.7億円
これを株数で割ると…… 理論株価:約 3,051円
現在の株価(2,000円)に対し、約1.5倍(+50%)の上昇余地があります。 つまり、本来的には3,000円の価値がある財布が、なぜか2,000円で売られている状態です。
2. なぜ放置されているのか?(流動性の罠)
「そんなに美味い話なら、なぜプロの投資家が買わないんだ?」 当然の疑問です。しかし、そこには明確な理由があります。
「水槽が小さすぎて、クジラ(機関投資家)が入れないから」です。
ドーンの時価総額は60〜70億円規模。1日の売買代金も数千万円レベルです。 数千億円を運用するファンドマネージャーにとって、この規模は投資対象になり得ません。
- 買えない: 数億円分買おうと注文を出したら、自分の買いで株価が暴騰してしまう。
- 売れない: 逃げたい時に買い板が薄すぎて、売るに売れない。
プロたちは「中身が良いのは分かっている。でも、仕事として買えない」と指をくわえて見ているのです。 この「プロ不在」の空白地帯こそが、株価が理論値(3,050円)にサヤ寄せされず、割安なまま放置されている真犯人です。
3. 個人投資家だけが享受できる「不便益」
しかし、これは私たち個人投資家にとっては最高の環境です。 私たちはクジラではありません。数千株程度なら、いつでも問題なく泳げます。
つまり、ドーンへの投資は以下のようなボーナスステージです。
- 機関投資家が立ち入れない「聖域」で、
- 本来3,000円の価値がある「高収益&キャッシュリッチ企業」を、
- 「流動性が低い」という理由だけで、3割引で独占的に仕込める。
市場の「不便さ」を引き受ける対価として、将来的なリターンが約束されている状態。 私はこれを「不便益」と呼んで愛好しています。
まとめ:静かなる「歪み」を拾う
株価が動かないことを嘆く必要はありません。 計算ロジックが正しければ、今の株価は「3割引セール」が常態化しているだけです。
いずれ企業が成長して時価総額が大きくなり、機関投資家のレーダーに引っかかる時。 あるいは、溜め込んだキャッシュを使って自社株買いや増配が行われる時。
その瞬間、この「流動性ディスカウント」は解消され、株価は理論値へと一気に跳ね上がるでしょう。 それまでは、この歪みの構造を理解している投資家だけが、静かにその価値を享受しておけばいいのです。
人気のない路地裏にこそ、本当の名店がある。 株式市場もまた、同じなのかもしれません。