【銘柄メモ】株価815円の現実。かつての「将棋の神様」HEROZ (4382)。市場評価が“労働集約型SIer”へと剥落する中で、経営陣が見せる「意地」。

【銘柄メモ】株価815円の現実。かつての「将棋の神様」HEROZ (4382)。市場評価が“労働集約型SIer”へと剥落する中で、経営陣が見せる「意地」。

現在の株価を見て、思わず二度見してしまいました。 815円(2025年12月19日終値)。上場直後に12,000円を超え、日本のAI産業の未来を背負うと期待されたあのHEROZ(4382)が、です。 ここまで下がるとは……というのが正直な感想です。

かつて将棋の世界でプロ棋士を凌駕し、「AIの可能性」を誰よりも早く我々に見せてくれたHEROZ。 その現在地はどうなっているのか。久しぶりに決算短信や有価証券報告書を一通り読み込んでみて、エンジニアとして、そして一人の投資家として感じたことを残しておきます。

1. 「将棋AI」の凄さと、汎用性の誤算

まず前提として、HEROZが作り上げた将棋AIは、技術的に本当に偉業でした。 将棋はチェス以上に盤面が複雑で、持ち駒の再利用があるため計算量は天文学的です。その中で「最適解」を導き出す探索アルゴリズムを実用レベルのアプリに落とし込んだ技術力は、間違いなく当時の世界標準を超えていました。

しかし、ビジネスにおける「AIのトレンド」は残酷なほど変わってしまいました。

今の主流はChatGPTなどの「大規模言語モデル(LLM)」による多言語処理です。「将棋の次の一手を読む(深い探索)」技術と、「自然言語を操る(生成)」技術の間には、期待したほどの親和性(汎用性)がなかったということでしょうか。一方で、株式市場では、機械学習の強みが「AI」というぼんやりとした強みで買い進まれた「いいかげんさ」を感じます。

2. 市場評価の剥落:「AI企業」から「労働集約型SIer」へ

今回、決算書(2026年4月期 第2四半期)などを読み込んでみて、市場がなぜここまで株価を売り込んだのか、その理由が透けて見えました。 それは、彼らが「AIという魔法を使う企業」ではなく、「労働集約的なシステム開発会社(SIer)」として再定義(値付け)され始めたからです。

自前でLLMを持たず、既存のAPIを活用して個別のソリューションを開発するスタイルは、どうしても「労働集約型」にならざるを得ません。 スケーラビリティ(爆発的な利益拡大)が期待しづらいため、かつて付いていた高いPER(期待値)が剥落し、現実的なSIerとしての株価水準に引き戻されていると捉えることはできそう。

3. 決算書から感じる「経営陣の努力」

しかし、ただ手をこまねいているわけではないことも、決算書の行間からは伝わってきました。 夢のあるストーリーというよりは「なりふり構わぬ現実的な構造改革」への努力です。

① ハイパースケーラー(OpenAI等)のAPI活用という「割り切り」

ここが最も現実的な変化です。自前でLLMを開発するという無謀な体力勝負は避け、Microsoft(Azure)やOpenAIの「API」を接続して活用するポジションに完全に舵を切りました。

エンジニア視点で見れば、これはコア技術を他社に依存する「ラッパー(Wrapper)」になることを意味します。「HEROZ独自の技術」が見えにくくなる寂しさはありますが、経営判断としては「使えるものは何でも使って、顧客の課題解決に徹する」という、合理的かつ泥臭い生存戦略です。

② SaaS買収による「数字」の確保

セキュリティ企業のバリオセキュアを連結子会社化したことが、今のHEROZの数字を下支えしています。 これは「AIの魔法で売上を爆発させる」という夢から一旦離れ、「手堅いSaaSビジネスを買ってでも、確実に利益を積み上げる」という、経営陣の構造改革への並々ならぬ覚悟の表れに見えます。

バリュー投資では評価できない

株価はかなり下がっていますが、自己資本比率は比較的高く、今すぐどうこうなるような財務状況ではありません。 ただ、今のこの状況で「逆張り」で買い向かえるかというと……個人的にはまだ難しいと感じました。

「売上成長の確度」がまだ見えにくいからです。 この状態では割引現在価値がワークせず、バリュー投資として買うことは難しいです。

しかし、決算書からは再起を図る経営陣の必死の抵抗と、汗をかいて構造を変えようとしている努力が透けて見えます。かつて将棋の世界を変えた彼らです。 この苦しい「路線変更」をやり遂げ、またエンジニアをワクワクさせるような「次の一手」が差される日が来ることを、静かに見守り続けたいと思います。

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