【検証】なぜダブルエー(7683)は広告を打たないのか?決算書の「優待コスト3,800万円」に隠された生存戦略。
12月の株主優待を取る投資家の皆さんも少し落ち着いた頃でしょうか。 多くの銘柄が権利落ちを消化する中、私のポートフォリオには1月に権利確定を控える、ある「バグり銘柄」が鎮座しています。
婦人靴「ORiental TRaffic」などを展開するダブルエー(7683)です。
ここの優待は、カタログギフトやQUOカードではありません。「店頭の好きな靴(定価8,000円相当など)が1足もらえる」という、極めて実用性の高い現物支給です。今の株価水準から計算すると、実質利回りは5%〜7%近くに達します。
投資額: 14万〜15万円前後
優待内容: 店頭の好きな靴(定価8,000円相当)が1足無料

ただ、エンジニアの職業病なのか、あまりに条件が良い案件(スペック)を見ると、「裏があるんじゃないか?」「無理をして配りすぎて、システムダウン(改悪)するんじゃないか?」と心配になってしまいます。 そこで、1人の個人投資家として、有価証券報告書(2025年1月期)という名のログをデバッグ(解析)してみました。
結論から言うと、そこには「メーカー特権」をフル活用した、極めて合理的な生存戦略が隠されていました。
「1.3億円」のはずが「3,800万円」? 数字のトリックを解く
まず、誰もが抱く疑問。「これ、いくらかかってるの?」についてです。 最新のデータ(2025年1月期)によると、ダブルエーの株主数は17,026名です 。
もし全員に定価8,000円の靴を配っているとしたら、単純計算で 約1億3,600万円 のコストがかかるはずです。 しかし、決算書の「販売費及び一般管理費」の注記を確認すると、会社が計上しているコスト(株主優待引当金繰入額)は、桁が違います。
- 株主優待引当金繰入額: 3,882万円
なぜ、約1.3億円相当の価値を、4,000万円弱で提供できるのか? ここに「小売業の会計ロジック」があります。
会計上、優待引当金は「定価(売価)」ではなく、「仕入原価(コスト)」で見積もられます。 つまり、この金額のギャップ(定価の約70%オフ水準)こそが、メーカーであるダブルエーの「高い粗利率」の証明でもあるのです。
自社製品を配る優待は、現金を配当として出すよりも、圧倒的にキャッシュアウトが少なくて済む。 これこそが、高利回りと財務健全性を両立させる「メーカー特権のバグ技(仕様)」です。 「コストが安い=怪しい」ではなく、「コストが安い=ビジネスモデルが優秀」というポジティブなシグナルとして受け取って良さそうです。
驚異の「CPA(顧客獲得単価)」2,200円
次に、マーケティングの視点でこの数字を見てみます。 ダブルエーは売上約228億円 の企業ですが、販管費は13億円程度でのほとんどは店舗家賃や人件費です。TVコマーシャルやオンライン広告がありません。

では、この「優待コスト3,882万円」を広告費として捉えるとどうなるか? 株主1人あたりに換算してみます。
3,882万円 ÷ 17,026人 ≒ 約2,280円
マーケティング用語で言う「CPA(顧客獲得単価)」が約2,280円」です。 Web広告を運用したことがある方なら分かると思いますが、これはけっこういい数字です。
たった2,000円ちょっとのコストで、以下のコンバージョンをすべて達成できるのですから。
- 物理トラフィックの発生: 優待を使うため、確実にECまで足を運ばせる。
- UX(体験)の提供: 実際に靴を履かせ、品質を肌で感じさせる。
- EC会員化: 優待利用には会員登録が必要なため、自然にデジタル接点を持てる。
Web広告で「EC登録+商品体験」まで持っていこうとすれば、CPAはこんな金額では収まりません。 株主優待は、単なる還元ではなく、「最強の来店トリガー」として機能しています。
【男性投資家へ】これは「家庭内リスク」のヘッジである
最後に、ここまで読んで「でも婦人靴だし、俺には関係ないか」とブラウザを閉じようとしている男性投資家の皆様へ。 それをスルーするのは、機会損失(Opportunity Cost)です。
ダブルエーの優待は、「家庭内政治(Politics)」において最強の武器になります。 私はこの優待券を、妻へのプレゼント(献上品)として活用しています。
普段、相場が暴落して含み損を出していると、家族からは冷ややかな目で見られがちです。
(実際に第三四半期は下方修正が入りました。)
しかし、この優待が届く頃だけは、「投資もたまには役に立つのね」と、家庭内の空気が劇的に良くなります。
ポートフォリオの防衛だけでなく、「家庭内リスクのヘッジ」としても、ダブルエーは非常に優秀な銘柄です(笑)。 最近はスニーカーラインも充実しているようなので、もちろん自分用としても使えますが、まずは「平和維持活動」のために取得してみるのも、合理的な戦略ではないでしょうか。