【現地現物】ダブルエー(7683):40代男性が、妻を連れて婦人靴店へ。決算書に「手触り」を感じた日
ポートフォリオに組み込んでいる「ダブルエー(7683)」。 婦人靴ブランド「ORiental TRaffic」を展開する高収益企業ですが、正直に告白すれば、私にはひとつの懸念がありました。
「私は40代の男性であり、婦人靴の良し悪しなど1ミリも理解できない」
バフェットの言う「能力の輪」に照らし合わせれば、本来は手を出すべきではない領域です。しかし、財務諸表の美しさとビジネスモデルの合理性が、エンジニアとしての私を強く惹きつける。 この「数字上の惚れ込み」と「実感の欠如」のギャップを埋めるには、現場に行くしかありません。
というわけで日曜日の午後、妻を「視察のセンサー役」として連れ出し、ショッピングモールの実店舗へ足を運びました。 そこで私が見たのは、決算書の高い利益率を裏付ける、極めて物理的で冷徹な「仕組み」でした。
「売る」ためのアルゴリズムが、店舗という形をしている
現場に立って最初に感じたのは、店舗というよりも「高効率な販売装置」としての完成度です。
1. ミニマリズムという名のコスト削減
日曜の繁忙帯にもかかわらず、店員さんは実質1名(奥にもう1名いた気配はありましたが、フロアはほぼワンオペ)。 そして、店舗面積が異様に狭い。
これはネガティブな意味ではありません。無駄なスペースが一切ないのです。 家賃という固定費を極限まで削り、少人数で回せるオペレーションを組む。 エンジニア的に言えば、「リソース(床・人)の使用率を極限まで高めた設計」です。このローコスト体質こそが、あの高い営業利益率の源泉なのだと、肌感覚で理解しました。
2. ABCマートへのアンチテーゼ
興味深かったのは、同じモール内にある靴小売の巨人「ABCマート」との対比です。
- ABCマート: 壁一面に数千種類の靴。圧倒的な「検索量」で勝負するGoogleのような全方位戦略。
- ORiental TRaffic: 店頭のモデルは30種類ほど。「これだけ見てください」という提案型。
種類は少ないが、サイズ在庫は完璧に揃っている。 これは、同社が強みとする「需要予測AI」が現場レベルで機能している証拠でしょう。「売れるものだけを置く」という選択と集中が、在庫リスクを物理的に排除しています。
3. 客単価をハックする「2足買い」の魔法
そして、私が最も唸ったのが価格戦略のUI(ユーザーインターフェース)です。
基本ラインは1足8,000円前後。しかし、店員さんは必ずこう囁きます。 「2足まとめて買うと、12,000円になりますよ」
これを聞いた瞬間、多くの客の脳内で「1足で買うのは損だ」という回路が働きます。 結果、客単価は一瞬で1.5倍に跳ね上がる。 単価が低いという商材の弱点を、このシンプルなバンドル販売のアルゴリズムで解決している。非常にスマートな設計です。
「分からない」を「他人の感覚」で補完する
さて、肝心の商品力です。 どれだけ仕組みが良くても、モノが悪ければ持続可能性(サステナビリティ)はありません。しかし、前述の通り私には婦人靴のクオリティを判定する能力がない。
ここで、連れてきた妻(センサー)の出番です。 商品を手に取った彼女の感想はシンプルでした。
「全然安っぽくないよ。デザインもしっかりしてるし、この値段なら普段使いにちょうどいい」
男性の私から見ても、素材の質感や縫製にチープな「量産品感」はありませんでした。 SPA(製造小売)モデルで企画から製造まで管理することで、価格以上の価値(バリュー)を出せている。妻の言葉で、ようやく私の頭の中で「財務数値」と「商品価値」がリンクしました。
投資判断:保有継続、ただし「誘惑」は断ち切る
今回の視察で、ダブルエーという企業の解像度は劇的に上がりました。 モニター上の数字だけだったものが、質量を持った「実体」として腹落ちした感覚です。自信を持って「ガチホ(長期保有)」を継続します。 (ちなみに、株主優待で靴が1足貰えるので、それは今回の視察報酬として妻に献上する予定です)
余談ですが、規律の話を一つ。 同じモールにあった「3COINS(パルグループ)」も視察しましたが、こちらも素晴らしい活気と商品力でした。喉から手が出るほど買いたい銘柄です。
しかし、私のポートフォリオは既に小売セクターの比率が高まっています。 ここでパルグループを追加すれば、特定のセクターリスクに資産を晒しすぎることになる。
「良い会社だと分かっているが、規律のために見送る」
この苦渋の決断ができるかどうかも、知的で規律ある投資家であり続けるための試金石なのだと、自分に言い聞かせて店を後にしました。