「市場で株を買っても、企業には1円も入らない」というバグへの回答。あるいは、バフェットから学んだ資本の「質」について。

「市場で株を買っても、企業には1円も入らない」というバグへの回答。あるいは、バフェットから学んだ資本の「質」について。

ふと素朴な疑問を持ったことはありませんか。 私はありました。それも、システム上の重大なバグを見つけた時のような、喉の奥に小骨が刺さったような違和感として。

「市場(セカンダリー)で株をポチっても、それは前の持ち主にお金が渡るだけ。応援している企業の金庫には1円も入らないよね?」

「それなのに、私が株を持つことに、利殖以外の社会的な意味はあるのだろうか?」

正直に申し上げると、以前の私はこのあたりの解像度が著しく低かったのです。 「株価が上がれば企業も嬉しいんでしょ?」くらいの感覚で、どこかモヤモヤしたまま売買をしていました。

けれど、このブログ『K-Values Note』を通じて自身の思考を言語化し、バフェットやマンガーといった巨人の知恵を借りながら小型成長株と長期で向き合ううちに、ようやく霧が晴れました。

今では、この「一見矛盾に見える構造」こそが、私が成長株投資家として市場に向き合う最大の理由になっています。

これは、一人のエンジニア兼投資家が辿り着いた、ある仮説の記録です。


1. 企業にとっての「IPO」というアーキテクチャ

そもそも、なぜ企業は上場するのか。 以前は「資金調達のため」という教科書的な答えしか持っていませんでしたが、成長企業のダイナミズムを追ううちに、その設計思想が見えてきました。

銀行からの「融資」には限界があります。返済義務があり、確実性が求められるからです。 しかし、企業が世界を変えるようなイノベーションを起こすには、「失敗するかもしれないが、成功すればデカイ」という桁違いの資金(リスクマネー)が必要です。

そのリスクマネーにアクセスできる唯一の場所が、株式市場です。

企業は上場することで、使えるお金の桁を何十倍にも増やし、一気に勝負をかけることができる。 つまりIPOとは、企業が次のステージへ進化するための不可逆な決断なのです。

2. 「ショートターミズム」という制約と、投資家の役割

しかし、ここからが重要な気づきでした。 IPOで巨大な資金力を手に入れた代償として、企業は「常に市場の圧力に晒される」という過酷な環境に身を置くことになります。

株価は毎日値付けされ、「次の決算はどうだ」「もっと利益を出せ」という短期的なプレッシャー(ショートターミズム)が経営者を襲います。 これに負けてしまうと、企業は目先の数字合わせに走り、本来目指していた「10年後の未来」を作れなくなってしまう。

ここで初めて、「中古市場(セカンダリー)で株を買う私たち」の機能的な役割が繋がりました。

もし、株主全員が「今日儲けて逃げたい人」だったら、企業はこの圧力に潰されてしまいます。

でも、私たちが「成長を信じて待てる株主」として株を買い、保有し続けるとしたらどうでしょう。

それは、市場の短期的なノイズから企業を守る「ファイヤーウォール」になります。 私たちが「少々のことでは売らないよ」とどっしり構えることで、経営者は安心してハンドリングができ、長期的な挑戦に集中できる。

つまり、直接お金を振り込むわけじゃなくても、私たちは「時間」という最も貴重な資源を提供していることになるのです。

3. バフェットが教えてくれた「資本の質」

この考えに至る過程で、私の思考のOSをアップデートしてくれたのが、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの言葉でした。

彼らの著作を読むと、投資の本質は「金額の多寡」ではなく、「スタンス」にあることが痛いほど伝わってきます。

私たち個人投資家は、彼らのように何千億円も動かすことはできません。 運用できる資金は、せいぜい数百万円、数千万円という単位でしょう。

しかし、「資本の質」だけは、彼らと同じレベルまで高めることができると気づきました。

たとえ数百株であっても、「長期的なビジョンに共感し、一時的な不調では手放さない」という意思(タグ)が付けられた資金は、企業にとって良質な資本(クオリティ・キャピタル)となります。

「資金量は小さくても、意思は強く持つ」 そう定義した瞬間、自分のポートフォリオが単なる資産の集合体ではなく、未来への投票権のように思えてきたのです。

4. IRを「答え合わせ」ではなく「対話」として聞く

このスタンスが確立されてから、企業のIR(決算説明など)への向き合い方も変わりました。

以前は「今回の数字は良いのか? 悪いのか?」と、まるで試験官のような気持ちで聞いていました。 しかし今は、ショートターミズムに対する「経営者の味方」という立ち位置で聞いています。

「市場は短期的な数字を求めているけれど、御社の描く10年後の設計図に対して、今の進捗はどうですか?」 「私たちは待てますから、焦らずにその美しいロジックを完成させてください」

そんな「余裕」を持って経営者の言葉に耳を傾けられるようになりました。 IR資料の行間にある経営者の苦悩や、長期的な意志を読み取る。それが、長期投資家ならではの楽しみ方だと今は感じています。


投資家としての矜持ってほどでもないけど

「市場で株を買っても、企業には1円も入らない」 物理的なキャッシュフローとしては、確かにその通りです。

しかし、そこには「信頼」と「時間」という、バランスシートには載らないけれど、お金と同じくらい重要なものが注入されています。

私たちが市場で買い、保有し続けることは、企業が挑戦を続けるための「猶予期間」を作ることそのものなのです。

このブログを通じて思考を整理し、バフェットたちの哲学に触れることで、ようやくこの結論に「腹落ち」しました。

これから先、市場がどんなに荒れても、この軸さえブレなければ大丈夫だと確信しています。 私たちが選んだ企業たちが、私たちが提供した「時間」を使ってどんな未来を実装してくれるのか。

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